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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第二十二話(表)

――雷は、耐えた先に落ちる


 谷に、夜が降りた。

 空は雲に閉ざされ、星は見えない。

 濡れた


 桜花は、崖上の岩陰に立っていた。

 谷の底では、黒鋼軍の焚き火が、点のように連なっている。


「……耐えたか」


 低く呟く。

 黒鋼は、動かなかった。

 崩れず、突っ込まず、逃げもしない。


 それは、最も苦しい選択だ。

 兵の疲労も、緊張も、時間とともに積み上がる。


 だが──

 それでも形を保った。



 矢上が、声を潜めて近づく。


「敵、夜営を維持しています。

 突出も撤退もなし。

 ……


「それでいい」


 桜花は、谷を見下ろしたまま答えた。


「耐えるという行為は、

 必ずどこかで、歪みを生む」


 人は、無限には耐えられない。

 どれほど統率が取れていても、

 どれほど覚悟があっても。


     ◇


 深夜。

 風が、再び変わった。


 霧が谷に流れ込み、視界が急激に落ちる。

 焚き火の輪郭が滲み、隊列の境目が曖昧になる。



 桜


 これは偶然ではない。

 地形と時間が生む、必然の瞬間。


"それぞれ


 矢上が身を乗り出す。



 桜花は、刀を抜いた。

 刃が、わずかに月光を反射する。


"雷」


     ◇


 音は、ほとんどなかった。


 崖上から放たれた数本の矢が、

 焚き火の近くに突き立つ。


 炎が揺れ、

 影が、踊る。


「……」


 黒鋼軍の一角で、どよめきが走った。

 敵襲ではない。

 だが、確実に“異変”だ。


 そ


 谷の上流側で、落石が起きた。

 大規模ではない。

 だが、十分だった。


 列


     ◇


「……


 桜


 雷は、一直線に落ちるものではない。

 段階がある。

 溜まり、揺れ、そして──


 一点に集中する。


 桜花の狙いは、

 黒鋼でも、将校でもない。


 「


     ◇


 谷の中央。


 疲労の溜まった部隊が、

 霧と闇の中で、わずかに判断を誤る。


「……後ろが詰まってるぞ」

「前は動くなと言われてる!」

「いや、今の音は──」


 声が重なり、

 命令が、届かなくなる。


 その刹那。


 桜花が、姿を現した。


「──下がれ!」


 フラッシュ。


 斬ったのは、将ではない。

 兵でもない。


 **隊列の“間”**だ。


 動こうとした者と、止まろうとした者。

 その間に、雷のように踏み込む。


 血が飛ぶ。

 悲鳴が上がる。


 だが、それは殺戮ではない。


 崩壊の合図だ。


     ◇


「雷だ……!」

「来たぞ……!」


 恐れ


 耐え続けていたものが、

 一気に噴き出す。


 桜花は、深追いしない。

 斬り続けない。


 ただ、一度だけ、はっきりと見せる。


 ここにいる。

 ここで、落ちた。


 それで十分だ。


     ◇


 桜花は、霧の中へ戻った。


 背後で、黒鋼軍が必死に隊列を立て直す気配がする。

 怒号。

 号令。

 鉄の音。


 だが──

 もう、完全には戻らない。


「……黒鋼」


 桜花は、息を整えながら呟いた。


「耐えたな。

 だからこそ──

 落とせた」


 雷は、焦れた者に落ちる。

 だが、

 耐久性。


 そ


     ◇


 夜の谷に、雷鳴が轟いた。

 本物の雷だ。


 桜花は、空を見上げない。


 もう、見なくていい。


 戦場は、確かに動いた。

 次は、黒鋼が“答え”を出す番だ。


 第四部は、

 ついにフロントへと達した。

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