第13話(表) 『世界の反応 ― 英雄、“危険因子”と認定される』
――天城朔夜 視点
霧が揺れている。
風は吹いていない。
敵の魔導兵器も近くにいない。
それでも霧は、
“何かの心臓”のように強く脈打っていた。
(……檻が、動いたな)
朔夜は胸の奥の光が熱を帯びているのを感じた。
蓮の光。
少女の光。
そして――
檻そのものの残響。
(世界の深層と……繋がりができている?)
そのとき。
――空が裂けた。
稲光のような亀裂が、
灰境州の上空に走る。
副官が蒼白になって叫ぶ。
「朔夜様っ!!
これは……“自然現象”ではありません!!」
朔夜は目を細めた。
割れた空の奥から、
金色の光が降りてきている。
光は形を持つ――
いや、形を持とうとしている。
朔夜は直感で理解した。
(世界そのものが……干渉してきている)
霧の中から殲滅隊の隊長格が現れた。
装甲は焦げ、
身体は傷だらけ。
だがその目は、
“任務”だけを見つめていた。
「天城朔夜――
新規命令。世界意思から直下通知。」
隊長は震える声で告げる。
「貴様は、
“世界危険因子第一級”に再定義された。」
副官が息を呑む。
「……危険因子……第一級……!?」
それは、
戦争犯罪者でも、
国家反逆者でもなく――
“世界そのものの安定性を脅かす存在”に与えられる階級。
朔夜は剣を下ろし、静かに言った。
「理由は?」
隊長は金色の光を見上げながら答える。
「――貴様が、
“世界の境界線に触れた”ためだ。」
霧が大きく波打つ。
金色の光が朔夜の身体に触れようと降りてくる。
(触れさせるわけにはいかない)
朔夜は無意識に剣を振るう。
雷が上空へ走り、
金の光を切り払った。
切断された光は音もなく消え去る。
だが隊長は震えながら叫ぶ。
「愚か者!!
その光は“排除のための刃”ではない!!
“世界が貴様を取り込むための腕”だ!!」
朔夜の胸に戦慄が走る。
(……俺を“殺す”ためじゃない……
世界が……俺を取り込むため……?)
副官が囁く。
「朔夜様……
世界は……あなたを“敵”ではなく……
“素材”と見ているのかもしれません……」
金の光が再び降りてくる。
まるで、撫でるように。
触れられれば――
自分はどうなるのか分からない。
人間ではなくなる。
英雄でもなくなる。
“世界の一部”として書き換えられる。
それは、死よりも遠い。
朔夜は剣を構えた。
「触れさせるか。」
金の光が加速し――
朔夜に迫る。
しかし。
霧が前に出た。
霧が金の光を、
“拒絶”した。
空気が震え、
光と霧が激突する。
副官が叫ぶ。
「……朔夜様……
霧が……あなたを守って……!」
隊長が後退しながら言う。
「世界意思が……押し返されている……!?
あり得ん……!
英雄ひとりに、何が――!」
朔夜は気づいた。
(これは……俺が拒絶しているんじゃない)
(蓮……
少女……
お前たちの光が……
この霧を通して俺を守っている)
世界の光が揺れる。
怒っているように。
霧が応える。
雷が朔夜の背中を走り、
彼の影を“新しい形”に変えた。
副官が震えて言った。
「朔夜様……
あなたの“位相”が……
世界の干渉を拒絶して……再構築されています……!」
朔夜は前へ歩いた。
世界の光を見据えて。
「……世界意思。
お前に取り込まれるつもりはない。」
金の光が激しく波打つ。
「俺は――
俺の意思で動く。」
雷が刀身を焼き、
朔夜は叫ぶ。
「道を開けろ!!」
剣が空を裂く。
光の亀裂が広がり、
世界の腕が弾かれた。
戦場全体が震えた。
殲滅隊が呆然とする。
副官は息を呑む。
「……朔夜様……
あなたは……世界と対等に立っています……!」
朔夜は静かに言った。
(蓮……
俺はここにいる)
(必ず――辿り着く)
上空で、世界の光が退いていく。
まるで――
朔夜を“認めた”かのように。




