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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第7話(表) 『敵性判定 ― 英雄は、守られる側に落ちる』

――天城朔夜 視点


霧が、ゆっくりと動いた。


無籍領民の女が、銃口を下げないまま、朔夜を見ている。

その背後で、百余の人影が息を殺していた。


味方だったはずの連合兵は、すでに半円状に展開を終え、

その全ての照準が――無籍領民と、天城朔夜の両方を捉えている。


「朔夜様……」


副官の声は、完全に震えていた。


「撤回命令が……来ています……」


朔夜は、無線を見た。


《天城朔夜を“敵性個体”として暫定指定》

《灰境州第九層を“封鎖区域”へ変更》

《当該区域内の全存在を“処理対象”とする》


処理。


たった二文字が、

今この場にいる全員の命を“物”に変えた。


「……ずいぶん、決断が早いな」


朔夜は、低く呟く。


副官が、唇を噛みしめる。


「……この区域が例外として残れば、

 “新時代秩序は万能ではない”と証明されてしまう……」


「だから、

 例外ごと消す、か」


無線の向こうから、冷酷な声が重なる。


「天城朔夜。

 その場から退け。

 さもなくば、貴官ごと一帯を殲滅する」


朔夜は、背後を振り返らなかった。


(……予想より、早かったな)


「……あんた……」


無籍領民の女が、震える声で言う。


「……その兵たちは……

 あんたの“仲間”なんだろ……?」


朔夜は、はっきりと首を振った。


「今は――

 “命令の仲間”だ」


一瞬、女の目に、怯えと戸惑いが走る。


「……だったら……

 どうして、私たちを……?」


朔夜は、静かに答えた。


「……俺は、

 “例外を守る人間でいたい”」


その言葉は、

戦場には、あまりにも不釣り合いだった。


上空で、重低音が鳴り始める。


黒鋼製の制圧飛行艇。

機体下面の魔導砲が、淡く発光する。


副官が叫んだ。


「朔夜様!

 このままでは……

 味方の砲撃が……!」


朔夜は、無籍領民の女の方へ、一歩、踏み出した。


「……お前たち、

 この先に逃げ道はあるか?」


女は、一瞬迷い――

それから、はっきりと頷いた。


「……地下に、古い坑道がある……

 でも……

 子どもも、年寄りもいる……

 全員は……」


「……十分だ」


朔夜は、剣を逆手に構える。


その刃先が向いたのは――

飛行艇でも、無籍領民でもない。


自軍だった。


「全員――」


低く、だがはっきりとした声。


「俺の背後に立つな」


その瞬間、

戦場にいた全員が理解した。


――天城朔夜は、

本当に“こちら側”に立つつもりだ、と。


「……撃て!」


上空から、命令が降りた。


次の瞬間、魔導砲が発光する。


だが――

砲撃は、落ちなかった。


空中で、歪んだのだ。


「……なに……?」


副官が、目を見開く。


砲撃軌道に、

見えない“何か”が割り込んだ。


まるで、

空そのものが、拒絶したかのように。


(……今のは……)


朔夜の胸の奥が、

鋭く、引き裂かれるように軋んだ。


(……蓮……?

 いや……もっと、違う……)


次の瞬間。


再度、砲撃が来る。


今度は、避けられない――

そう、誰もが思った。


だが、そのとき。


無籍領民の女が、

朔夜の前に、立ち塞がった。


「……まだ……

 あんたを……

 死なせるって、決めてない……!」


彼女の胸元が、

淡く、光った。


ほんの一瞬。


だが確かに――

第四部の世界で、初めて“支配されない光”が、

戦場に実体として現れた瞬間だった。


砲撃が、

大きく逸れ、

地面を抉る。


爆炎と衝撃の中で、

朔夜は、目を見開いた。


「……お前……

 今のは……」


女は、自分の胸を呆然と見つめながら呟く。


「……分からない……

 でも……

 “守りたい”って……

 思った……」


それだけだった。


「退避!」


朔夜は叫んだ。


「地下に走れ!

 今すぐだ!」


無籍領民たちが、動き出す。


その背を庇うように、

朔夜は、砲撃の方向に立った。


雷が走る。


味方だった魔導兵の弾幕を、

雷哭の一振りで叩き落とす。


「……英雄が……

 味方を……斬った……」


兵の誰かが、呟く。


だが今、

それを訂正する者はいなかった。


戦闘は、十五分で終わった。


無籍領民の大半は、地下へ逃げ切った。

連合軍は、封鎖線を敷き、深追いをしなかった。


理由は一つ。


「英雄を失うリスクが、

想定以上に大きいと判断された」


朔夜は、地下坑道の入口で立ち尽くしていた。


無籍領民の女が、振り返る。


「……あんた……

 これから……どうなる……?」


朔夜は、少しだけ、疲れたように笑った。


「……さあな」


「たぶん――

 もう、戻れない」


女は、少しだけ目を伏せてから言った。


「……それでも……

 さっき……

 守ってくれた……」


「だから……

 あんたは……

 “敵”でも……

 “化け物”でもない……」


その言葉が、

朔夜の胸に、深く突き刺さった。


上空で、飛行艇が離脱していく。


灰境州の霧の奥で、

英雄は、公式に“新時代の敵”となった。


だが同時に――

英雄は、はじめて“誰かに守られた”。

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