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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第5話(表) 『灰境州前線 ― 英雄が降りた“捨てられる戦場”』

――天城朔夜 視点


輸送列車が、最後の減速に入った。


窓の外に広がるのは、

かつて三国の国境線だった場所――灰境州。


赤錆びた砲台跡。

半壊した監視塔。

霧と鉄粉が混じる灰色の大地。


(……なるほどな)


(……ここは、“平和の緩衝地帯”なんかじゃない)


(……“捨て場”だ)


列車が停止する。


扉が開いた瞬間、

生暖かい風と、火薬の匂いが鼻を突いた。


「――英雄殿、到着です」


淡々とした声。

そこに敬意はあっても、温度はない。


ホームに降り立つと、

すでに編成された部隊が整列していた。


桜花の魔導兵。

黒鋼の装甲歩兵。

ストラタの観測支援隊。


混成部隊――

だがその空気は、明らかに“混ざってはいなかった”。


互いに、警戒し合っている。

友軍でありながら、敵でもある目。


(……これが、新時代軍の実態か)


朔夜は、ゆっくりと前に出た。


「――天城朔夜だ」


それだけ告げると、

場の空気が一段階、張り詰める。


誰もが彼を見る。

だがその視線にあるのは、

信頼だけではない。


“この男が失敗すれば、

すべてが灰になる”


そんな圧を、はっきりと感じ取れる。


前線司令部は、地下にあった。


古い防空壕を拡張した、即席の拠点。


そこで朔夜は、

この地の“本当の情勢”を叩きつけられる。


「灰境州では現在、

 大小合わせて十七の武装集団が散在しています」


参謀が、無感情に告げる。


「旧黒鋼派、旧桜花過激派、

 国家再編反対派、宗教系、思想系――」


「……要するに、“行き場を失った連中”の吹き溜まりだな」


「はい」


即答だった。


「いずれも、

 表舞台から消すには“面倒”で、

 かといって、放置もできない存在です」


朔夜は、静かに拳を握った。


(……やっぱりだ)


(……ここは、“問題”をまとめて燃やす場所だ)


「英雄殿の任務は単純です」


参謀は続ける。


「この地の武装勢力を、

 “分断・衝突・殲滅”の三段階で整理していただく」


「……整理、か」


その言い方が、

どうしても“人ではなく物を処理する言葉”に聞こえた。


最初の戦闘は、到着からわずか二時間後だった。


灰境州北部。

旧黒鋼系残党と、思想集団が衝突中との報。


「英雄殿、中央突破を」


迷う時間など、与えられない。


霧の向こうで、

銃声と魔導光が交錯する。


朔夜は、剣を抜いた。


(……また、か)


(……また、“俺がいれば早く終わる”戦場だ)


雷が走る。


一撃で、戦線が割れる。

二つの勢力が、強制的に巻き込まれる。


叫び声。

退却指示。

混乱。


だが、撃ち合う相手が“明確”になった瞬間、

戦場は、効率的に“片付いて”いく。


十五分後。


その場に残ったのは、

倒れた兵と、拘束された生存者だけだった。


「作戦成功。

 英雄殿、見事な制圧です」


無線に流れる称賛の声。


だがその言葉は、

朔夜の耳には遠く、歪んで聞こえた。


(……違う)


(……これは、“勝利”じゃない)


(……“処理”だ)


戦後処理の最中。


拘束された一人の若い男が、

朔夜を見上げて叫んだ。


「……あんたが、英雄だろ……!」


朔夜は、立ち止まる。


「……だったら……

 どうして俺たちは、

 ここに捨てられた……!」


その叫びには、

怒りよりも、絶望の方が混じっていた。


朔夜は、一瞬、言葉を失った。


だが――

背後から、冷たい声が重なる。


「英雄殿、

 感傷は不要です」


「彼らは、“新時代に不要な存在”です」


その言葉を聞いた瞬間、

朔夜の中で、はっきりと何かが逆流した。


(……不要、だと……)


彼は、若い男に視線を戻す。


「……俺は、

 お前が“不要”だなんて、思ってない」


男は、驚いたように目を見開いた。


だがその次の瞬間、

すぐに連行されていった。


その背中を、

朔夜は、ただ黙って見送ることしかできなかった。


夜。


簡易司令室で、

朔夜は独り、地図を見つめていた。


灰境州。

無数のマーク。

次の戦場、次の戦場、次の戦場。


この地では、

戦いが“連続処理”として管理されている。


(……俺は、

 この地で……)


(……何を守っている……?)


そのとき。


胸の奥が、

微かに――だが、確かに――

“光に引かれるように軋んだ”。


夕凪の顔が、脳裏をよぎる。

そして――

どこか遠くで、

蓮の気配が、ほんの一瞬だけ重なった気がした。


「……まだ、繋がってるのか……」


英雄は、

“捨てられる戦場”に降り立った。


だがその足元で、

支配に抗う物語は、

すでに、別の場所でも動き始めている。

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