第4話(表) 『戦勝式典 ― 英雄は、祝福されて縛られる』
――天城朔夜 視点
霧鋼平原の戦いから、わずか三日後。
帝都・桜花の中央大通りは、
戦後とは思えぬほど、明るく飾り立てられていた。
蒸気灯に巻かれた白布。
風に揺れる連合軍の旗。
沿道には、幾重にも重なる人、人、人。
「――雷哭の英雄!」
「新時代万歳!」
「連合軍、万歳――!!」
歓声は、祝砲のように街を撃ち抜く。
朔夜は、その中心を歩いていた。
甲冑は磨き上げられ、
背には“新時代連合”の紋章。
誰の目にも、完璧な英雄の姿として映る。
(……たった三日前の戦場を、
こいつらは、もう“物語”に変えたのか)
背後で、燈子が小さく声を潜める。
「朔夜様……
生存者の扱いがどうなったか、
正式な報告が……まだ……」
「聞かなくていい」
朔夜は、前だけを見て答えた。
「たぶん――
もう“都合よく処理された”」
燈子は、それ以上、何も言えなかった。
式典の壇上。
桜花、黒鋼、ストラタ、
三国の代表が並ぶ光景は、
もはや“同盟”というより、統合の序章だった。
ストラタ評議官が、ゆっくりと声を張る。
「霧鋼平原における作戦の成功により、
新時代連合軍はその“抑止力”を、
全大陸へ明確に示した」
「これは、
新時代の平和の第一歩である」
整然とした拍手。
だがそれは、
喜びというより“合図”に近かった。
続いて、黒鋼側代表が前へ出る。
「連合の象徴たる英雄、
天城朔夜に――
次なる任を命ずる」
その言葉で、
朔夜の中に、嫌な既視感が走る。
(……来たな)
「これより、
“新時代治安維持圏”の設立を宣言する」
場が、ざわめく。
「世界が消え、
国家の境が揺らいだ今、
局地紛争は、必ず再発する」
「それを防ぐため、
新時代連合軍は、
各地に“常駐監視戦力”を配置する」
つまり――
大陸全土への、点在的軍事支配。
朔夜の背筋に、冷たい汗が伝う。
「その第一任地として――
英雄、天城朔夜を、
“緩衝地帯・灰境州”へ派遣する」
その瞬間、
すべてが理屈として噛み合った。
(……隔離、か)
帝都から遠ざけ、
黒鋼とストラタの境目に配置し、
常に“戦争の種”の上に立たせる。
英雄を、
常時戦場に縛りつける最適解。
式典が終わったあと。
控室で、
朔夜は壁にもたれ、深く息を吐いた。
「……俺は、
どこまで“便利な存在”なんだ……」
燈子が、意を決したように言う。
「朔夜様……
これは、もう……」
「ああ。
“戦争を終わらせるための戦争”じゃない」
「……“続けるための戦争”だ」
英雄を、
止まらせないために、
戦場を、途切れさせない。
それが、新時代の設計図。
そのころ。
夕凪は、帝都の離れにある居館で、
小さな胸騒ぎを覚えていた。
理由は、分からない。
だが、胸の奥で、
どこかが強く、引き裂かれる感覚がする。
(……お兄ちゃん……
遠くに行っちゃうの……?)
誰も説明しない。
誰も、選ばせない。
それでも夕凪は、
無意識のうちに、
そっと胸元を押さえた。
“あの光”が、
どこかで軋む音がしたから。
その夜。
朔夜のもとに、
正式な辞令が届いた。
新時代連合軍・先遣英雄部隊指揮官
天城朔夜
灰境州 派遣を命ず
そこには、期限も、拒否条項も、存在しなかった。
朔夜は、紙を静かに置き、呟く。
「……これが、
“祝福の次に来るもの”か……」
窓の外。
帝都の灯りは、今日も美しかった。
だが彼には、
その光が、檻の照明のように見えていた。
新時代は、
英雄に“休息”を与えない。




