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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第4部

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第3話(表) 『最初の出動命令 ― 英雄は、試される』

――天城朔夜 視点


出動命令は、

考える暇すら与えない形で下された。


「新時代連合軍・第一次実証作戦。

 目標地点、旧国境線・霧鋼平原。

 目的――“地域不安定因子の即時制圧”」


仮設司令室に、無機質な声が響く。

地図の上で、赤い光点が脈打っていた。


「……旧黒鋼の残党狩り、という名目か」


朔夜は、低く呟く。


隣に立つ参謀が、即答する。


「公式には“過激武装集団の掃討”です。

 ですが実際には――

 “新時代軍の強さを、世界に示すための戦闘”になるでしょう」


つまりこれは、戦争ではない。


“公開実験”だ。


どれだけの火力を持ち、

どれだけの速度で制圧し、

どれだけ“英雄が役に立つか”を測るための。


朔夜の胸に、鈍い違和感が沈んでいく。


「……俺が、前衛か?」


「はい。

 “最も象徴的な配置”です」


参謀は、悪びれもせずそう言った。


(……なるほどな)


(……英雄は、数字を飾る“旗印”か)


出動前。


新時代連合軍の部隊が、

帝都外縁の演習場に整列していた。


黒鋼製の新型装甲兵。

ストラタの観測支援部隊。

桜花の魔導歩兵。


かつて敵同士だった軍勢が、

今は同じ紋章を肩に付け、同じ方向へ銃口を向けている。


その最前列に、朔夜の立ち位置だけが

不自然なほど“空いて”いた。


壇上に立つ軍務監察官が、高らかに告げる。


「諸君。

 これより行うのは、新時代の“最初の一撃”である」


「神も世界も、もはや我らを縛らない。

 この世界は、我ら自身の手で守り、編み直す」


「その象徴として――

 ここに立つ英雄、天城朔夜を、先陣とする」


ざわり、と兵たちの間に波が走る。


崇拝、憧れ、緊張、そして――

“英雄の背中に隠れられるという安堵”


そのすべてが、朔夜の背に突き刺さる。


(……やめろ)


(……俺は、盾じゃない)


だが口に出せば、

それは“士気を下げる英雄”として処理されるだけだ。


だから朔夜は、

ただ一言だけ、低く言った。


「……作戦内容を、簡潔に」


作戦は、単純だった。


霧鋼平原に立て籠もる

“旧黒鋼系武装集団”の制圧。


だがその実態は、

黒鋼再編に反発した技術者と元兵士たちの寄せ集めだと、

朔夜は報告で読んでいた。


「……向こうは、正規軍じゃない。

 逃げ場を潰せば、全滅する」


「はい。

 その“全滅”の映像も含めて、

 広報部が記録に入ります」


胸の奥が、冷たく凍る。


(……やっぱりな)


(……これは、“戦い”じゃない)


(……“新時代の見せしめ”だ)


霧鋼平原。


霧と鉄粉が混じる灰色の大地の向こうに、

簡易バリケードで固められた敵陣が見えた。


通信が入る。


「英雄殿、前進を」


朔夜は、剣の柄に手をかける。


雷は、応えない。

まるで、この戦いが“正しくない”と知っているかのように。


それでも――

進まなければならない。


一歩、踏み出した瞬間。


敵陣から、

震える声の拡声が響いた。


『待て……!

 俺たちは、

 ただ……“元の生活に戻る場所”が欲しいだけだ!』


若い声だった。


朔夜の足が、止まる。


だが、背後から冷たい声が飛ぶ。


「英雄殿。

 ためらいは不要です。

 “新時代は、迷いを必要としない”」


その言葉で、

朔夜の中の何かが、はっきりと折れた。


(……ああ……)


(……これが……)


(……“人の作る時代”か……)


雷が、鳴った。


その一撃で、

霧鋼平原の防衛線は、わずか数秒で崩壊した。


兵たちがなだれ込み、

銃声と魔導光が、霧の中に散る。


朔夜は、斬った。


斬らねば、

この軍は止まらない。


斬らねば、

さらに大きな虐殺が起きる。


だから彼は、

“英雄としての最適解”を選び続けた。


戦闘は、

十五分で終わった。


残ったのは、

叩き伏せられた拠点と、

拘束された生存者、そして――

映像記録用に飛び交う、無数の観測ドローン。


戦後。


司令部から、即座に通達が入る。


「作戦成功。

 新時代軍の有効性、証明完了」


「英雄殿、

 次の作戦準備に入ってください」


その言葉を聞いた瞬間、

朔夜の胸に、強烈な確信が走った。


(……終わらない)


(……これは、

 “最初の一戦”じゃない……)


(……“始まりの連鎖”だ)


彼は、灰色の平原に残る煙を見つめながら、

小さく、しかし確かに呟いた。


「……俺は、

 誰の時代を、作らされている……?」


英雄の初陣は、

こうして“正しさに守られた実験”として刻まれた。

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