第2話(表) 『新時代宣言 ― 英雄に拒否権はない』
――天城朔夜 視点
新時代宣言は、
あまりにも“あっさり”発表された。
桜花帝国・帝都中央広場。
仮設の壇上に並ぶのは、桜花の重臣、ストラタの評議官、黒鋼の再編交渉代表。
かつて敵として刃を交えた者たちが、今は同じ方向を向いて立っている。
その中心に――
当然のように、朔夜の立ち位置が用意されていた。
「……立っただけで、もう決定事項か」
背後で、燈子が低く呟く。
「朔夜様は、象徴です。
“新時代の顔”として」
(……顔、ね)
空はどこまでも青い。
だがその青さが、今日はやけに遠く感じた。
やがて、ストラタ評議官が一歩前に出る。
「――ここに、新時代の到来を宣言する」
声はよく通り、広場全体に響き渡った。
「神も世界修復装置も失われた今、
我々は“人の手による新秩序”を選ぶ」
「その中核に立つのが――
天城朔夜。
“雷哭の英雄”である」
歓声が、爆音のように湧き上がる。
だが朔夜の内側は、妙に静かだった。
(……俺は、何も選んでいない)
ただ戦って、
妹を取り戻して、
生き残っただけだ。
それだけで、
ここまで担ぎ上げられる理由になるのか。
壇上に進み出た瞬間、
黒鋼の代表が、淡々と告げる。
「新時代連合軍の設立に伴い、
貴殿には“最高戦術監修官”の任を委ねる」
「拒否権は?」
朔夜は、即座に問う。
一瞬だけ、空気が止まった。
ストラタ評議官は、穏やかな笑みを崩さずに答える。
「ありません」
その言葉は、
銃声よりもはっきりと、胸を撃ち抜いた。
式典のあと、
朔夜は即座に“次の会議”へと連行された。
部屋は、豪奢ですらある。
だが出入口には、明らかに武装兵が配置されている。
「……軟禁、だな」
「保護です」
対面に座る評議官が、静かに言う。
「英雄が失われることこそ、
今の世界で最も“危険”なのです」
「俺が英雄であること自体が、
もう“利用目的”なんだろう?」
評議官は、否定しなかった。
「人は、光を必要とします」
「だがその光は、
“勝手に動いては困る”」
その瞬間、
朔夜の中で、何かがはっきりと音を立てて噛み合った。
(……これが……)
(……“正義による支配”か……)
その夜。
帝都の一角で、
夕凪は小さくくしゃみをした。
「……風、強いね」
縁側に並んで座る燈子が、そっと上着をかける。
「お兄様は、今ご公務中です」
「……そうなんだ」
夕凪は、空を見上げる。
同じ空。
同じ青。
けれど――
同じ世界ではない気がした。
(……お兄ちゃん、
ちゃんと……“自分の意思”で、立ってるのかな……)
その疑問は、
まだ誰にも届かない。
同じころ、他国では。
黒鋼が新型部隊の量産を再開し、
ストラタは情報網を大陸全域へ展開し、
“新時代”の名の下に、
軍備はむしろ加速していた。
誰もが言う。
これは防衛だ。
これは抑止だ。
これは平和のためだ――と。
だが朔夜は知っている。
世界が消えたことで、
「止める存在」もまた、消えたのだと。
今、正義を止めるものは、もうどこにもいない。
夜。
仮設執務室の窓辺で、
朔夜は独り、呟いた。
「……世界より、
人の方が――
よほど厄介だな……」
雷は、まだ剣の中に眠っている。
だがこの戦いは、
斬れば終わるものではない。
新時代を作る戦争は、
“英雄の意志”すら、材料にして進み始めていた。




