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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第3部

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第三部・整理回

『世界が、止まったあとで』


戦いが終わった、という実感は。

いつも――少し遅れてやってくる。


大陸全土を覆っていた蒼い揺らぎは、

いつの間にか、どこにも見えなくなっていた。


空は青く、

雲は白く、

風は、ただの風に戻っていた。


それはとても静かで、

とても当たり前で――

だからこそ、人々は最初、こう思った。


「……本当に、終わったのか?」


■ 桜花帝国 ――「世界が、命令しなくなった日」


帝都・桜花の朝は、いつも通り鐘の音から始まった。


蒸気塔は稼働し、

商人たちは露店を準備し、

子どもたちは走り回っている。


だが――

何かが、決定的に違っていた。


陰陽師たちが、告げる。


「……結界の反応が、完全に“平常値”です」


「いや、平常値どころじゃない……

 もっと静かだ。

 “何かに監視されていた気配”が、消えている」


軍の参謀たちは、

最初、それを“計測ミス”だと思った。


だが、陰陽師も、技術者も、

同じ結論に辿り着く。


「世界が、命令してこなくなった」


それは比喩ではない。


これまで大陸の各所で観測されていた

“世界修復反応”

“蒼揺れ”

“強制再編の兆候”


――そのすべてが、同時に、完全に、消え失せた。


参謀本部の一人が、ぽつりと呟く。


「……神さま、じゃなかったってことか」


それは、不安でもあり、

そしてどこか、安堵でもあった。


■ 黒鋼連邦 ――「管理されない世界の不気味さ」


黒鋼では、最初に異変が起きたのは――工場だった。


模造炉が、突然“余計な反応”を起こさなくなった。


これまで黒鋼の技術は、

決して設計通りには動かなかった。


必ずどこかに――

“世界側の補正”が入っていたからだ。


だが、その日を境に、

補正は、完全に消えた。


技師たちは戸惑う。


「……おい、炉の揺らぎが“安定しすぎてる”ぞ」


「いや、これが本来の挙動なんだ……

 今までは……

 “何かが、勝手に手を入れていた”」


そして、

影機関の古い記録当番が、

倉庫の底から一枚の文書を掘り起こす。


『扉とは、世界が“自分で世界を作り直すための装置”である』


宗六の狂気の思想は、

その日に――

完全に、過去の遺物になった。


黒鋼の上層部は、初めて理解する。


「俺たちは、“神を道具にしようとしていた”のではない。

“神の装置の上で、踊らされていた”だけだったのだ」


戦争の意味が、

初めて、根本から変質した瞬間だった。


■ ストラタ ――「予言が“役目を終えた日”」


中立国ストラタでは、

古代遺跡群が、同時に“沈黙”した。


万年動き続けていた封印陣が、

ふっと――呼吸するように消えた。


神官たちは祈りを捧げる。


だが、祈りの言葉の最後は、

もはや“畏怖”ではなかった。


「――ありがとう。役目は、終わりました」


王は、玉座で小さく呟く。


「予言とは、

 “未来を縛る言葉”ではなく、

 “未来を解いてもいい合図”だったのだな」


以後、

ストラタは中立を捨てる決断をする。


“世界の神”がいなくなった以上、

もはや中立でいる理由も――

縛りも――消えたからだ。


■ そして、夕凪は


夕凪は、最初の数日間――

何もできなかった。


眠る。

起きる。

……それだけで、精一杯だった。


世界の鍵として使われていた身体は、

今も重く、

今も脆く、

そして――今も“確かに不安定”だった。


だが。


ある日、

彼女は湯のみを持ったまま、

不意に、手を滑らせた。


カシャン、と音を立てて、

湯のみが床に落ちる。


割れた。


その破片を見た瞬間――

夕凪は、息を吸って。


「……あ……あはは……」


突然、泣きながら笑った。


「……割れた……

 割れるって……

 こういうことなんだ……」


燈子が、慌てて駆け寄る。


「夕凪様、お怪我は――」


「……ないよ。

 だって……

 “ちゃんと、重かった”んだもん」


それはつまり――

夕凪の身体が、世界ではなく、重力に属した証明だった。


鍵ではなく、

装置ではなく、

ただの“人”になった、最初の証拠。


その夜、

夕凪は初めて、

何の夢も見ずに眠った。


■ 蓮という存在の「整理」


蓮については、

公式には何も発表されなかった。


黒鋼でも、

桜花でも、

彼の名は“記録に残らない存在”として扱われた。


だが、実際には――

各国の裏側で、こう噂され始めている。


「世界の内核に入り込んだ男がいた」


「鍵を“人に戻した”者がいる」


「そいつは、“世界そのもの”と殴り合ったらしい」


名も、肩書きも、

すべて曖昧なまま。


だが、その存在は――

確かに“大陸に刻まれた”


当の本人は。


「……有名になるのは、苦手なんだよな」


と、どこかで呟きながら、

静かに“普通の場所”へ戻っていった。


だが彼は、

もう“普通の人間”ではいられない。


なぜなら彼の中には、

世界と、人を繋いだ傷跡が残っているからだ。


■ 朔夜という「基準点」


朔夜は、

英雄として扱われた。


だが、本人はそれを

一切、望まなかった。


「俺は――

 世界を救ったんじゃない」


そう言って、

報告書の山を脇へ押しやる。


「ただ、

 “妹を取り戻した”だけだ」


だが不思議なことに、

この言葉こそが――

多くの者の心を、最も強く打った。


世界のためではなく


理想のためでもなく


勝利のためでもなく


「たった一人のために、世界と戦った男」


この評価は、

桜花帝国の内外を問わず、

静かに、だが確実に浸透していく。


そしてそれは――

第四部へ繋がる、“新しい戦争の火種”にもなる。


■ 世界はどうなったのか(はっきり整理)


ここで、読者のために、

今の世界の状態を“はっきり言語化”する。


✅ 世界修復装置は 完全に停止


✅ 世界構造核は 破壊され再起動不能


✅ 夕凪は 鍵ではなく“人として存在”


✅ 蒼揺れは 二度と起きない


✅ 世界が“勝手に歴史を書き換えること”は 不可能


つまり――


この世界は、完全に

「人が、自分で間違える世界」になった。


もう、誰も――

失敗を“世界のせい”にはできない。


■ だからこそ、戦争は「終わった」と言えない


世界が消えたから、

戦争が終わった――

わけではない。


むしろ、逆だ。


神の正義が消え


絶対的な最適解が消え


“どちらが正しいか”を決める存在が消えた


つまり――


これからの戦争は、

「思想と意思」だけで起きる。


それが、

第三部の“本当の結末”だった。


■ だから、これは「終わり」ではない


朔夜は兄に戻り、

夕凪は人に戻り、

蓮は世界の外側から去った。


だが――


世界はまだ不安定で


国家はまだ疑心暗鬼で


人はまだ“答え”を探している


第三部は、

“神の時代の終焉”であり――

“本当の人間の時代の始まり”でもある。

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