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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第3部

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59/110

第12話(表) 『ただいま、と言える世界』

――朔夜視点


中央石室に、

静寂が落ちた。


あれほど荒れ狂っていた再起動演算も、

世界意思の怒りも、

すべてが――

嘘のように、消えていた。


朔夜は、剣を支えにして立っていた。


全身が軋み、

雷も、魔力も、

ほとんど残っていない。


だが――

胸の奥に、ひとつだけ、

確かな“鼓動”があった。


(……生きてる……)


(……蓮も……夕凪も……)


「……よし……」


朔夜は、ふらつく足で、一歩を踏み出す。


中央石室の奥。

崩れ落ちた世界構造核の残骸の向こうから、

人の気配が、はっきりと近づいてくる。


燈子が、涙をにじませた声で言った。


「朔夜様……

 “人の反応”です……

 二つ……いえ……三つ……!」


その言葉を聞いた瞬間――

朔夜の喉が、かすかに詰まった。


瓦礫の陰を抜けて、

最初に現れたのは――


「……よう」


血にまみれ、

それでも、確かに立っている男。


刃向蓮だった。


「……随分、派手にやったな。

 “世界”相手に」


朔夜は、思わず苦笑した。


「お前もな。

 “内側”を破壊する役は、

 相変わらず無茶すぎる」


視線が、自然と、

その奥へ向かう。


小さな足音。


ゆっくりと、

それでいて、確かな足取りで――

その姿は、現れた。


「……お兄ちゃん」


その声を聞いた瞬間、

朔夜の視界が、わずかに揺れた。


「……夕凪……」


目の前に立っていたのは、

蒼光に包まれた“鍵”ではない。


震えて、

息をして、

涙を浮かべている――

ただの、“天城夕凪”だった。


「………………」


言葉が、出てこない。


夕凪は、

一歩、前へ出る。


そして――

もう一歩。


最後の一歩は、

ほとんど、駆けるように。


「……お兄ちゃん……!!」


小さな身体が、

朔夜の胸にぶつかった。


衝撃でよろめきながらも、

朔夜は、

その背中を、強く、強く抱きしめた。


「……無事で……よかった……」


声が、震えた。


「本当に……

 本当に……

 無事で……」


夕凪は、

ぎゅっと、

朔夜の軍服を掴む。


「……お兄ちゃん……

 わたし……

 もう、“鍵”じゃないよ……?」


「……ああ」


朔夜は、

夕凪の髪に、そっと顔を埋めた。


「お前は……

 俺の妹だ。

 それ以外の役割なんて、

 最初から必要なかった」


夕凪の肩が、

小さく、何度も震えた。


(……間に合った……)


(……すべてを失う前に……

 ちゃんと、取り戻せた……)


少し離れた場所で、

蓮が、静かにその光景を見ていた。


朔夜が、顔を上げ、視線を向ける。


「……蓮」


「……なんだよ。

 お前まで泣く気か」


「……礼を言う」


朔夜は、はっきりと告げた。


「お前が――

 夕凪を“人のまま”

 ここまで連れてきた」


蓮は、少しだけ視線を逸らした。


「……俺はただ、

 約束を果たしただけだ」


「そうだったか」


朔夜は、

ほんの少し、口元を緩めた。


「……なら、俺もだ」


そのとき――

中央石室の天井が、

ゆっくりと崩れ始めた。


外の空が、見える。


蒼でもなく、

黒でもない――

**ただの“朝焼けの空”**だった。


燈子が、声を張り上げる。


「ここが崩れます!

 皆さん、脱出を!!」


朔夜は、夕凪の手を取った。


「……帰るぞ」


夕凪は、

はっきりと、頷いた。


「……うん。

 お兄ちゃんと……

 一緒に帰る」


三人は、

崩れる石室を、

並んで走り出す。


世界は壊れた。

だが――


人が、人として生きる場所は、

まだ、ここに残っていた。

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