第11話(表) 『雷哭・最終段階 ― 世界を断つ兄の剣』
――朔夜視点
中央石室は、
もはや“戦場”という言葉ですら生温い場所になっていた。
蒼と黒が反転し、
再起動演算と排除命令が食い違い、
世界そのものが自己矛盾で悲鳴を上げている。
管理端末《第一位階》――
いや、今やそれは“世界意思の化身”としか呼べない存在が、
石室そのものと融合し、巨大な影として蠢いていた。
「天城朔夜……
あなたの存在は、
世界の“完成”を妨げる」
その声は、
もはや機械でも、神でもなかった。
“失敗を認められない思想”の化身だった。
朔夜は、剣を強く握る。
柄から、
雷が骨伝導のように腕へ流れ込む。
「完成だの最適解だの……
そんな言葉で縛ってきた結果が、
この“歪み”だ」
世界意思の化身が、
無数の構造腕を展開する。
一撃一撃が、
“空間の消去”そのもの。
触れれば、
存在ごと削り取られる。
「……避けきれない……!」
燈子の悲鳴が響く。
構造腕が、
四方八方から朔夜へと襲いかかる。
だが朔夜は――
避けなかった。
「雷哭は――
“受けて、斬る技”だ」
次の瞬間。
朔夜の全身へ、
世界消去の圧が直撃する。
右肩が裂け、
左脚の感覚が消え、
視界が白く揺らぐ。
――それでも。
次の拍動で、
雷が“逆流”した。
——《雷哭・最終段階》
雷は、
“世界の圧”をそのまま喰らい、
それを“斬撃”へ変換する。
朔夜は、
血に濡れながら、
前へ踏み込んだ。
「世界が――
人を選ぶな」
剣が、光る。
「人が――
世界を選ぶんだ」
■ 世界意思への最終突入
巨大な影――
世界意思の化身の“核”が、
ついに露わになった。
蒼と黒が渦巻く、
“世界の判断部”。
そこへ向かって、
朔夜は一直線に踏み込む。
管理端末の声が、
初めて“恐怖”の波形を帯びた。
「――停止せよ!
あなたがそこへ踏み込めば、
世界構造は……!」
「知ってる」
朔夜は、剣を振り上げる。
「だから――
今、斬る」
その瞬間。
胸の奥で、
確かな“人の声”が重なった。
『……お兄ちゃん……
わたし……
“天城夕凪”で……ここにいる……』
続いて、
もう一つの声。
「朔夜。
内側は――
“人のまま”守った」
朔夜の視界が、
一瞬だけ滲む。
「……上出来だ」
雷が、
剣でも、魔力でもなく――
“人の意志”へ変貌した。
——《雷哭・最終段階・真式》
振り下ろされた剣は、
空間も、演算も、再起動命令も――
すべてを“斬断する概念”そのものだった。
――――――――――――――ッ!!!!!!!
世界意思の化身の“核”が、
真っ向から、両断された。
一瞬、
すべての音が消えた。
再起動演算が、
停止し、
排除プロセスが、凍結し、
中央石室の時間が――止まる。
管理端末の声が、
か細く響く。
「……世界修復……
不能……」
そして、
その光が――
ゆっくりと、崩れ落ちていった。
■ 世界が、止まった瞬間
石室全体が、
静寂に包まれる。
朔夜は、剣を支えに、
膝をついた。
血が床へ落ち、
蒼光だった床が、
“ただの石”へ戻っていく。
燈子が、泣きそうな声で駆け寄る。
「朔夜様……!!
生きて……いますか……!」
「……なんとかな」
朔夜は、息を荒くしながら天井を仰いだ。
(……夕凪……
蓮……)
(……間に合った……よな……)
その瞬間――
中央石室の“奥”から、
はっきりと感じる、二つの鼓動。
(……生きてる……)
朔夜は、
かすかに笑った。
「……勝ったな」
だが――
その直後。
止まったはずの世界構造核の残骸が、
不穏な“最後の光”を灯し始めた。
燈子が叫ぶ。
「朔夜様……!
あれは……
“最終余波”です!!」
「……やっぱりな」
朔夜は、剣を支えに、
ゆっくりと立ち上がった。
「世界は……
そんなに素直に、
終わらせてくれないか」
中央石室の奥――
内核側で、
蓮と夕凪がいる方向から、
同時に大きな光のうねりが立ち上る。
すべての“結果”が、
いま、同時に収束しようとしていた。




