第9話(表) 『世界構造核 ― 雷が届く場所』
――朔夜視点
中央石室は、もはや“建造物”ですらなかった。
蒼光で組み上げられた無限の演算回路が、
床も壁も天井も区別なく流動している。
世界そのものが、意志を持った巨大装置へと変貌していた。
管理端末《第一位階》は、その中心に浮かんでいる。
「天城朔夜。
あなたの存在により、
世界修復プロセスは臨界点を迎えている」
「ちょうどいい」
朔夜は、剣を強く握り直した。
「なら――
“ここ”を叩き壊せば、
お前たちの“正義”は止まる」
次の瞬間。
中央石室の床が“反転”し、
重力が、真正面から朔夜を叩きつけた。
「――ッ!」
燈子が悲鳴を上げる。
「朔夜様!
石室そのものがあなたを“圧殺対象”に――!」
「分かってる!」
朔夜は歯を噛みしめ、
全身へ雷呪を走らせる。
——《雷哭・第四式》
雷光が、朔夜自身の肉体を包み込み、
“重力”の押し潰しを無理やり相殺する。
その瞬間、
管理端末の背後で――
巨大な“蒼の心臓部”が露出した。
(……あれが……
“世界構造核”……)
鼓動している。
人間の心臓のように、
ゆっくり、
だが確実に。
——ドクン……ドクン……
そのたびに、
中央石室全体の光が脈打ち、
防衛騎が再構築され、
蒼揺れが大陸へ拡散していく。
「……つまり」
朔夜は、剣先を核へ向けた。
「あれが動いている限り――
夕凪は“鍵”として縛り続けられるってわけだ」
管理端末の声が、わずかに荒れる。
「肯定。
世界は、個人より常に上位にある」
「……そんな“上位”に、
妹を差し出す気はない」
次の瞬間。
世界構造核から、
無数の蒼の鎖が射出された。
燈子が符をばら撒く。
「防御結界!
でも――
数が多すぎます!!」
蒼の鎖が、
朔夜の四肢へ向かって一直線に迫る。
(……来る……!)
だが――
その瞬間。
——ドクン!!
“別の拍動”が、
中央石室の奥から重なった。
(……この鼓動は……
蓮……!?)
裏9で生じた“零コンマの隙”。
世界構造核の拍動が、
ほんの一瞬だけ“揺れた”。
「……今だ!!」
朔夜は、全魔力を剣へ注ぎ込んだ。
——《雷哭・最終臨界式》
空間そのものが、白く引き裂かれる。
雷は、
防衛騎でも、
管理端末でもなく――
一直線に、世界構造核へ叩き込まれた。
――――――――――ッ!!!
耳も、感覚も、意識も、
すべてを吹き飛ばす轟音。
世界構造核に、
初めて“裂け目”が走った。
《……損傷……確認……》
管理端末の声が、
初めて、明確に“動揺”を帯びる。
《世界修復、局所停止……》
燈子が、震える声で叫ぶ。
「朔夜様……
核が……“止まってる”……!」
だが、その直後――
核の裂け目から、
黒く濁った蒼光が噴き出した。
朔夜の背筋が凍る。
(……しまった……
これは……“修復”じゃない……)
管理端末の声が、歪んだ。
「……誤算。
世界修復とは、
“再構築”であると同時に――
“淘汰”である」
黒い蒼光が、
内核全体へ拡散していく。
《不適合因子――
排除フェーズを、
全域へ拡張》
「……つまり」
朔夜は、剣を構え直した。
「夕凪だけじゃない。
この場にいる“全員”を――
消す気か」
管理端末は答えない。
だが、
中央石室全体が
“敵意”そのものへと変貌した。
その瞬間――
朔夜の胸に、
はっきりと“夕凪の声”が響いた。
『……お兄ちゃん……
世界が……
本気で……
わたしたちを……』
「分かってる」
朔夜は、剣を強く握った。
「だから――
ここから先は、
“世界と人間の、本当の決着”だ」
世界構造核は、
完全暴走へと移行した。
そして同時に――
内核では、
蓮と夕凪が、
“最後の数センチ”を詰めようとしている。
兄と、幼馴染と、妹。
三つの意志が、
いま――
同じ“一点”へと収束し始めていた。




