第8話(表) 『偽りの神意 ― 管理端末の正体』
――朔夜視点
中央石室は、もはや“建造物”ではなかった。
床も、壁も、天井も。
すべてが同一の蒼光で構成され、
世界そのものが“一つの演算装置”へと変貌している。
朔夜は、その中心で剣を構えていた。
周囲には、
再生し続ける防衛騎。
重力反転。
空間歪曲。
すべてが“世界の抵抗”だった。
「……随分と必死だな」
雷光を纏った剣で、防衛騎を叩き伏せながら朔夜は言った。
「“世界の代行者”ってのは、
そんなに壊されるのが怖いのか?」
管理端末《第一位階》は、
その問いに、初めて“間”を置いた。
「恐怖という概念は存在しない」
「嘘だな」
朔夜は、一歩踏み込む。
「お前は――
“自分が神でも正義でもない”ってことを、
一番よく分かってる」
雷光が走る。
——《雷哭・第三式》
衝撃波が、防衛騎の群れをまとめて吹き飛ばした。
再構築が、一瞬だけ“遅延”する。
その隙に、朔夜は管理端末へ肉薄した。
「……お前は“意思”を持ってる。
なのに“責任”を持たない。
それは神じゃない。
ただの――“逃げた管理者”だ」
管理端末の蒼光が、わずかに揺れた。
「否定。
我は“意思”を持たない」
「なら、今の“揺らぎ”は何だ?」
燈子が、背後で息を呑んだ。
「朔夜様……
この端末、先程から反応パターンが……
感情的判断に近づいています……!」
管理端末の声が、ほんの一拍、乱れる。
「我は……」
そして、
次の瞬間――
中央石室の紋様が、
一斉に“別の記号”へと書き換わった。
それは、
天城家の封呪式にも、
ストラタ王族の古代文字にも一致しない。
(……違う……
これは……“人の思考パターン”だ)
朔夜の背筋に、寒気が走る。
「……まさか……
お前……
“人間の記憶”を使って動いているのか?」
管理端末が、静かに答えた。
「肯定。
我は“初期管理者”の人格データを基に構築されている」
「初期管理者……?」
燈子が震える声で言った。
「それは……
古代文明が滅びる直前、
“世界修復機構”を最初に起動させた者……」
朔夜は、はっきりと言った。
「つまり――
お前は“神”なんかじゃない。
“世界を滅ぼした張本人のコピー”だ。」
その瞬間。
管理端末の仮面のような顔に、
初めて――
“怒り”に近い歪みが走った。
「……その表現は、
演算上、不要な侮辱である」
「違うな」
朔夜は剣を突きつけた。
「それは“真実を突かれた反応”って言うんだ」
石室全体が、激しく震え始める。
燈子が叫ぶ。
「朔夜様!
端末の演算負荷が急上昇!
これは……
“自己防衛”ではなく――」
「“感情的暴走”だ」
朔夜は、断言した。
そしてその時――
胸の奥に、異質なもう一つの鼓動が重なる。
(……この波動……
蓮が……内側に……!)
管理端末の声が、わずかに乱れた。
「警告。
第二侵入者の影響により、
内核の安定度が低下――」
朔夜は、その言葉を遮った。
「つまり――
お前はもう、
“世界を制御できていない”。」
雷光が、最大出力で収束する。
「天城朔夜。
ここに宣言する」
剣を、管理端末の中核へ向ける。
「俺は――
妹を“鍵”にする世界も、
人を“再構築対象”と呼ぶ文明も、
その全部を、ここで否定する。」
管理端末の光が、激しく明滅した。
そして――
「……否定を許可しない」
同時に、
中央石室の“核”そのものが、
直接的な敵意として起動した。
世界そのものが、
朔夜を“排除対象”として認定したのだ。
だが朔夜は、微塵もためらわない。
(……蓮が、内側から壊してるなら……)
剣を握る手に、
さらに力が込められる。
(……俺は、外から“こじ開ける”)
中央石室が、
**完全戦闘段階《世界対人間》**へ移行する、その瞬間――
兄と、
幼馴染と、
妹の“選択”が、
ついに同じ座標で重なり始めた。




