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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第3部

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第5話(表) 『蒼境越え ― ストラタ国境、境界線の向こう』

――朔夜視点


ストラタ国境に近づくにつれ、空の色は明らかに変わった。


青でも、灰でもない。

どこか“透けた蒼”――そんな色だ。


桜花帝国遠征軍は、蒼霧の漂う丘陵地帯を慎重に進軍していた。

操兵の蒸気音は極力抑えられ、陰陽師たちは常に結界符を貼り替え続けている。


ここはまだ中立地帯。

だが空気は、すでに“戦域”のそれだった。


「……結界強度、また低下!」


前方から怒号が飛ぶ。


葵が走り寄ってきた。


「朔夜様!

 第七小隊、蒼霧に巻かれました!

 視界不良に加え、精神干渉の兆候あり!!」


朔夜はすぐに判断する。


「後衛に下げろ。

 陰陽師を倍出せ。

 ここは“物理戦場”じゃない。

 精神への侵入こそが本命だ」


「了解!」


葵が踵を返す。


朔夜は馬上から周囲を見渡した。


兵たちの顔に、疲労と不安が浮かんでいる。

敵影はいない。

だが、確実に“何か”に見られている感覚が消えない。


(……これが、監視者の領域か)


扉の奥にいるという存在。

夕凪の統合で目覚めたという“意思”。


それが実在するとしたら――

この蒼霧は、その“視線の境界”なのかもしれない。


その時、燈子が馬を寄せてきた。


「朔夜様……

 ストラタ国境の結界、見えました」


前方の大地に、薄く蒼く光る“巨大な結界壁”が浮かび上がっている。

それは物理的な壁ではない。

だが確実に「こちら」と「あちら」を分けていた。


「……あれが、千年続いた中立の壁か」


燈子の声がわずかに震える。


「ここから先は、

 “誰の支配領域でもない場所”……

 そして同時に、

 “監視者の影響が最も濃い場所”でもあります」


朔夜は結界を見つめたまま言った。


「だからこそ……

 ストラタは、ここに“中央石室”を作った」


石室。

召喚状に記されていた“コア・サンクタム”。


夕凪と、天城家の血を呼び寄せた場所。


(……妹は、今もあそこに引き寄せられ続けている)


胸の奥が、微かに痛んだ。


その瞬間、空が鳴った。


——ゴォォォォッ……!!


雷のような蒼音が響き、

結界壁の一部が、ゆっくりと“開いた”。


兵たちがどよめく。


「結界が……開門した……?」

「まさか、迎え入れる気なのか……!」


燈子が即座に符を広げる。


「待ってください!

 これは……“招待型開放”です。

 一方的な侵入を拒みつつ、

 “指定された者のみ”を通す結界……!」


朔夜は馬を一歩進めた。


結界の内側から、

誰かの“視線”を、はっきりと感じる。


そして。


脳裏に、直接、声が響いた。


——『天城朔夜。

   あなたを待っていた』——


「……!」


兵たちには聞こえていない。

だが確かに、朔夜の“内側”だけに届いた声だった。


燈子が異変に気づく。


「朔夜様……?

 今……何か……」


朔夜は小さく息を吐き、はっきりと言った。


「……ストラタからの“正式な招待”だ」


「まさか……本当に……」


朔夜は前を見据えた。


結界の裂け目の向こう。

蒼い光に満ちた大地の奥に、

“中央石室”が待っている。


「天城朔夜、前進する。

 ここからは“少数精鋭”で行く」


「朔夜様!

 危険すぎます!!」


朔夜は振り返らずに答えた。


「危険なのは最初からだ。

 だが……

 この先で妹が“鍵として縛られる未来”が待っているなら、

 俺は、そこへ一人でも踏み込む」


燈子は、強く歯を噛み締めた。


「……ならば、私が行きます。

 あなたの“影”として」


朔夜は一瞬だけ目を閉じ、頷いた。


「来い、燈子。

 ここから先は、“兄”の戦場だ」


蒼い結界が、静かに道を開く。


桜花帝国遠征軍は、

ついに“中立国ストラタの核心”へ足を踏み入れた。


それは同時に――

監視者の“視界の中心”へ入ったということでもあった。

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