第3話(表) 『中立国の影 ― 蒼光の塔、始動』
――朔夜視点
蒼揺れの報告が帝都全域に広がった翌日。
参謀本部は、すでに戦時さながらの慌ただしさに包まれていた。
結界庁、陰陽庁、軍技術局――
すべての部署が“蒼反応”への対処に追われている。
朔夜は、燈子とともに参謀本部の大広間へ向かっていた。
各部署からの緊急報告が、数分単位で積み上がってくる。
広間に入ると、すでに参謀たちが集まり、
大陸全図と結界地図を睨みつけていた。
第一参謀が朔夜を見るなり声を上げる。
「朔夜将補、東方から新たな報告が届いた。
ストラタ方面に現れた“蒼光柱”——
どうやら一つではないらしい」
朔夜の眉がわずかに動いた。
「複数……だと?」
結界地図に新しい印が打たれる。
・大光柱(遺跡中央)
・光点(周囲6箇所)
・蒼揺れ(広域に拡散)
燈子が素早く解析を始める。
「この配置……
古代ストラタ文明の“六封陣”と一致しています。
本来は封印結界のはずが……
逆に“外へ向けて放射”しているように見えます」
封印陣が、外へ向けて発信している――
その意味に、朔夜はすぐ気づいた。
(何かを……呼んでいる?
それとも……何かに応えている?)
参謀たちの間にざわめきが走る。
「ストラタが……封印を解除しているのか?」
「中立を掲げてきたあの国が、なぜ今になって……」
「帝国が攻撃される可能性は?」
「黒鋼と連携しているのでは?」
朔夜は静かに、しかし強く声を上げた。
「落ち着け。
これは黒鋼の仕業ではない。
蒼の波長は“扉由来”……
そして、ストラタの結界技術そのものだ」
沈黙が落ちる。
朔夜は続けた。
「黒鋼連邦がこの規模の“地脈操作”をできるなら、
すでに大陸は蒼化している。
だがそうなっていない以上……
今回の現象は“中立国ストラタが主導”している」
第一参謀が唸るように呟いた。
「つまり……
ストラタは、扉の残響を利用しているのか?」
燈子が補足する。
「この蒼揺れは、帝国だけでなく、黒鋼でも発生しています。
ストラタが何かを“起動”したことで……
三国すべてに波及している可能性が高いです」
朔夜は大陸全図を見つめた。
帝国に広がる蒼揺れ。
黒鋼の不自然な沈黙。
そしてストラタの異常な光柱。
点ではなく、線。
線ではなく、面。
(……これは大陸規模の“再編プロセス”だ)
もし扉の奥に“監視者”が存在するなら、
夕凪の共鳴核はその起動条件に過ぎない。
第二部で夕凪が統合した瞬間、扉の奥が目覚めた。
そしてストラタはその動きを察知し、封印陣を変換した。
では――目的は?
その時、通信兵が駆け込んだ。
「緊急通信!!
ストラタ王国より“帝国宛ての直通文書”が到着!!
……これは、外交文書というより……
“召喚状”です!」
会議室がざわめく。
朔夜は文書を受け取ると、
その封に刻まれた古い紋章を見て目を細めた。
「……“ストラタ古代王家の印”」
燈子が息を呑む。
「今の王家が使うはずのない……
千年前の印……!」
朔夜は封を切り、文面を読み上げた。
――『蒼の鍵を持つ一族へ。
蒼穹監視機構が目覚める前に、
“中央石室”へ来られたし。
この大陸の未来は、あなた方の選択にかかっている』
会議室に深い沈黙が落ちた。
夕凪が眠っている朔夜の家。
朔夜自身。
天城家の血。
すべてが“鍵の一族”として名指しされている。
朔夜は文書を静かに置いた。
「……ストラタは、すべてを知っている。
扉の奥に“何が”いるのか。
この蒼揺れの正体も。
だから我々を呼びつけた」
燈子が朔夜を見る。
「……行くおつもりですか?」
朔夜は頷いた。
「行くしかない。
これは帝国の問題ではない。
大陸全体の問題だ。
そして……」
夕凪の姿が脳裏に浮かぶ。
「妹がどれだけ“巻き込まれている”かを、
俺自身の目で確かめる必要がある」
その瞬間、帝都が揺れた。
——ゴォォォォォォ!!
蒸塔が蒼光を上げ、
街中の魔導灯が一斉に“蒼色”へ変わった。
燈子が叫ぶ。
「朔夜様!
蒼揺れが帝都中央に拡散!!
結界圏の一部が“書き換わって”います!!」
朔夜はすぐ立ち上がった。
「全軍へ通達!
大至急、帝都を蒼化から守れ!!
そして……」
蒼く染まる帝都を睨みつけ、言い放つ。
「ストラタへの遠征準備を開始する!」
大陸の未来を左右する戦いが、
すでに始まっていた。




