第2話(表) 『蒼の兆し ― 帝都会議、揺れる判断』
――桜花帝国・朔夜視点
参謀本部の会議室は、
朝だというのに空気が張りつめていた。
壁に張られた大陸全図には、
各地で発生している“蒼揺れ”の記録が
次々に追加されていく。
東方戦線:蒼光柱の確認。
北部国境:地脈反応の急上昇。
西方村落:結界の一部が“蒼化”。
報告官たちが慌ただしく走り回り、
結界班や陰陽庁の担当者たちが
次々と新しい観測データを投げ込んでいた。
その中心に立つ天城朔夜は、
大陸地図へ静かに目を落としていた。
(ストラタが動き……
桜花も揺れ始め……
黒鋼の動きだけが不自然に静かすぎる)
これは偶然では済まされない。
燈子が静かに横へ並ぶ。
「朔夜様。
結界庁の技師より報告がありました。
“蒼化した結界”の紋様……
夕凪様の持つ〈蒼の共鳴核〉と“類似”していると」
朔夜の瞳がわずかに揺れた。
「……つまり、
夕凪の力と同質の波長が、
大陸全土で観測されていると?」
「はい。
本来ならありえない現象です。
夕凪様は現在、黒鋼で静養中のはず。
それなのに帝都でも反応が出るなんて……」
朔夜は考える。
夕凪は今も眠っている。
統合の負荷が大きかったからだ。
その夕凪が、
自分の意志と無関係に世界へ“影響”を及ぼしている……?
(扉が沈黙しただけだ。
夕凪は“鍵の資格”を完全に放棄したわけじゃない。
だから――世界が彼女を呼ぶのか)
その時、緊急通達官が駆け込む。
「参謀殿ッ!
東方防衛線にて、“蒼化兵装”と思われる現象が発生ッ!!」
会議室がざわめく。
朔夜は振り返り、鋭く問う。
「蒼化兵装……?
黒鋼連邦の新型か?」
「違います!
発光の波長が“扉反応値”と非常に近い!
魔導装甲が自動で展開し、
操兵部隊の一部が暴走しています!」
操兵部隊の暴走――
それはただの魔導不具合ではない。
朔夜は即座に判断を切り替えた。
「……これは“大陸規模の異変”だ。
帝国だけでどうにかなる問題ではない」
燈子が息を飲む。
朔夜は続けた。
「黒鋼連邦の動きはどうだのか?」
別の参謀が答えた。
「……観測班の報告によれば、
黒鋼の地脈も一部蒼化している模様。
しかし彼らは沈黙を保っています。
軍の動きも“異様なほど整然としている”と」
沈黙する連邦。
暴走する桜花の地脈。
光柱を上げるストラタ。
もう点ではない。線だ。
朔夜にはわかる。
(……この3つは“同じ源”に繋がっている)
その源こそ――扉の奥。
予感は確信へ変わりつつあった。
壇上に立つ老臣・加賀守が声をあげた。
「朔夜将補よ!
この蒼揺れ……
黒鋼連邦の“新兵器実験”ではないのか!?
やつらは扉の技術を盗み、
我らを揺さぶっておるのだ!」
会議室がざわめく。
朔夜は静かに言葉を返した。
「……違います」
「何だと……?」
「黒鋼連邦の兵器波長とも違う。
夕凪の共鳴核とも性質が異なる。
これは――“大陸外部からの干渉”だ」
静寂が落ちた。
朔夜はゆっくりと続ける。
「扉の奥に“何か”がいる。
扉崩壊で消えたと思われていたが、
沈黙しただけだ。
奴らは今……
大陸全域を観測している」
老臣たちの表情がこわばる。
燈子だけが静かに頷いた。
(やはり……朔夜様も気づいておられたのですね)
通信兵が再び駆け込む。
「報告!
帝都外縁部にて……
“蒼の霧”が発生ッ!
一帯の動植物が魔力活性化を起こしています!」
朔夜は一拍だけ考え、命じた。
「全軍へ通達。
“蒼揺れ警戒態勢・第二段階”へ移行する。
結界庁は霧の拡散経路を封鎖しろ。
そして――」
大陸地図のストラタ区域に目を向け、静かに言い放つ。
「中立国ストラタへ使者を送る。
彼らは何かを知っている」
燈子が目を開いた。
「……動きますか」
「動く。
もう待つ段階ではない。
夕凪を……
この蒼の渦に巻き込ませるわけにはいかない」
その言葉は、参謀としての判断であり、
一人の兄としての願いでもあった。
蒼い風が、会議室の窓を揺らした。
帝都はまだ知らない。
——この風が、大陸史の転換点となることを。
第三部の物語は、確実に“動き始めた”。




