第27話(表) 『蒼光の終曲 ― 四つの願いが交わる時』
蒼い結界が震え、崩れ落ちるように形を変えた。
影夕凪は“第三形態”へと覚醒していた。
蒼結晶の翼が十枚以上に増え、
髪は光の粒子となって舞い、
顔には涙と怒りと渇望が交錯した色が宿っている。
その姿は、美しく、哀しく、そして——
危険すぎた。
「もう……いやなの……
否定されるのも……
いらない子みたいに扱われるのも……
夕凪が強くなるたびに……
いらなくなるのも……
そんな世界……いやぁぁああああああ!!!」
空間そのものが裂けた。
蒼光の奔流が全方位を襲う。
朔夜は夕凪を抱え込むようにして前へ出た。
「夕凪!! 下がっていろ!!」
「お兄ちゃん……!
影ちゃん……泣いてる……!!」
「泣いていても……暴走は止まらない!!
夕凪……ここからは、俺に任せろ」
朔夜の声音に、参謀の冷静さも、兄の迷いもなかった。
ただ一人の男として——
妹と、彼女の痛みの影に向き合う。
蓮が朔夜の横に立った。
「朔夜……
俺も戦う。
俺は……逃げない。
夕凪と、影夕凪と……全部に向き合う」
朔夜はちらりと蓮を見た。
その瞳には、かつての疑いも怒りもない。
あるのは、ただ——背中を預ける覚悟。
「……任せるぞ、蓮。」
真白が蓮の背に手を当てた。
「蓮……
あなたの選択、私が支えるから。
怖くても、進んで」
蓮は強く頷いた。
その瞬間、影夕凪が叫ぶ。
「やめて……!
三人だけで……
勝手に“物語”を作らないで!!
わたしだって……
夕凪なのに……!!
わたしだって……
愛されたかったのに……!!」
その叫びは、
夕凪本人の胸にも深く突き刺さった。
夕凪は朔夜の腕を離れ、一歩前に出た。
「影ちゃん……」
朔夜が驚き叫ぶ。
「夕凪!?」
夕凪は震える声で続ける。
「わたし……影ちゃんの気持ち……わかるよ……
わたしも……ずっと……
誰にも言えなかったから……
寂しくて……怖くて……
泣きたくても……泣けなくて……
“いらない子”だって……思ってた……」
影夕凪の蒼い瞳が揺れる。
「……夕凪……?」
夕凪の声は震えていたが、確かだった。
「影ちゃん……
あなたはわたしの“弱さ”じゃない。
わたしが……生きるために必要だった部分だよ。
だから……
“いらない”なんて言わない。
あなたは……わたしなの」
影夕凪の翼が大きく揺れた。
朔夜は刀を下げ、夕凪の言葉を静かに聞いた。
(夕凪……
お前は……こんなにも強くなったのか……)
蓮は胸を押さえながら呟く。
「夕凪……
お前がそう言うなら……
影夕凪も、もう“敵”じゃない……
でも……
このままじゃ……世界が持たない……!」
真白が叫ぶ。
「影夕凪は“存在理由”が揺らいでる!!
夕凪ちゃん本人に肯定されて……
蓮に認められて……
でも“どう生きればいいか”が分からないから……
暴走してるの!!」
影夕凪が震える。
「わたし……どうしたら……
どうしたら……生きていいの……?
夕凪がいれば……わたしは不要……
蓮くんが夕凪を選ぶなら……
わたしは……消えるだけ……!!」
その言葉で、夕凪は影へ走った。
「違う!!
わたしは——
あなたと一緒に生きたい!!
影ちゃんは“わたしの涙”なんだから……
ひとりにしない!!
帰ろう……一緒に……!!」
影夕凪が泣きながら叫ぶ。
「ほんとうに……!?
ほんとうに……“わたし”を……
いれてくれるの……!?
夕凪の中に……
また……戻っても……いいの……!?」
夕凪は涙の中で笑った。
「戻って……きて。
わたしはあなたと一緒じゃなきゃ……
前に進めない」
影夕凪の身体が震え、
蒼い光が強く脈動する。
だがその瞬間——
扉そのものが激しく軋んだ。
真白が絶叫した。
「まずい!!
“統合が始まる”!!
影夕凪が夕凪に戻ろうとすると……
扉が“鍵の完成”と誤認する!!
このままだと——
大陸全域が蒼光に飲まれる!!」
蓮が叫ぶ。
「どうすればいい!?
夕凪と影夕凪を……助けるには……!!」
朔夜が刀を構え直し、低く言った。
「夕凪……
影……
どちらかを“失う”選択をする必要はない。
だが……
この暴走を止める力がいる」
夕凪が朔夜を見上げた。
「お兄ちゃん……?」
朔夜は力強く頷く。
「俺が道を作る。
夕凪、お前は影を“迎え入れろ”。
蓮、真白……お前たちは夕凪の心を支えろ。
影、お前は夕凪に“帰る勇気”を持て!!」
影夕凪は泣き叫び——
その涙が空間に蒼雨を降らせた。
「こわい……!!
でも……いきたい……
夕凪と……いっしょに……!!」
四者がそろって前に進む。
扉が最終形態へと変わり、
蒼い柱が天を貫く。
第二部最終決戦、
いよいよクライマックスへ突入。




