第26話(表) 『兄妹の選択 ― それでも手を伸ばす理由』
蒼い光が渦巻き、
巨大な“選択の門”が軋む音を立てた。
蓮が門の前で立ち尽くし、
影夕凪は涙を流しながら、その背中に手を伸ばしている。
だが——
朔夜は夕凪を抱えたまま、
ゆっくりと一歩前に進んだ。
「夕凪」
朔夜の声は震えていなかった。
だが、その瞳には炎のような熱が宿っていた。
夕凪は朔夜の胸に縋りつきながら、
かすれた声で答える。
「お兄……ちゃん……
わたし……もう……どうしていいか……」
「いい。
俺がいる。
お前の“選択”を……支えるのが兄の務めだ。」
夕凪は目を見開く。
朔夜は続けた。
「夕凪。
俺はもう……お前を守るだけの兄ではいられない。
お前が“自分の言葉で未来を選ぶ”なら——
俺はその選択を共に背負う」
夕凪の胸が震えた。
影夕凪の声が、苦しげに空へ響く。
「やめて……
夕凪にそんなこと……言わないで……
夕凪は……人のためにしか生きられない……
自分なんて……選べない……!!
私が……代わりに選ぶの……!!」
夕凪は朔夜の腕の中で小さく首を振った。
「違う……
もう違うの……影ちゃん……
わたし……“選びたい”……
お兄ちゃんと……蓮くんと……
真白ちゃんと……
みんなで……生きたい……!」
影夕凪が凍りついたように動きを止める。
「……そんな……
夕凪……
あなた……自分を選べるの……?」
夕凪は涙を流しながら立ち上がる。
朔夜はそっと手を支える。
夕凪は影夕凪へ向かって一歩進んだ。
「影ちゃんは……
わたしの涙……
わたしが“助けて”って言えなくて……
苦しくて……
壊れちゃいそうだった時に……
生まれてきてくれた……
だから……
嫌いなわけないよ……」
影夕凪の瞳に揺れる光。
夕凪は続ける。
「でもね……
今は……わたしが“言いたい”の。
助けてほしいって。
生きたいって。
戻りたいって。
もう……泣きたくても……泣いていいんだって……
お兄ちゃんが……教えてくれたから……!」
朔夜の胸が熱くなる。
(夕凪……
お前は……こんなにも……強い)
影夕凪の声が震える。
「……夕凪……
そんな言葉……
今まで、言えなかったくせに……
今さら……
“自分で選ぶ”なんて……!」
「うん。
今さらだよ。
でも……今、選びたいの。」
夕凪の小さな声が、
扉の蒼光よりも強い響きを持って広がった。
そして——
夕凪は朔夜の手を強く握る。
「お兄ちゃん。
わたしを……連れて帰って」
その言葉は、
兄を信じ切った妹の“決意”そのものだった。
朔夜は一度も迷わず頷く。
「——必ず連れ帰る。
影が相手でも、扉が相手でも。
夕凪の未来は……俺が切り開く」
影夕凪の翼が大きく震えた。
「やめて……!
そんなの……ずるい……!!
夕凪が……自分で選ぶなら……
私は……一体……何なの……!!
夕凪の涙でも……痛みでも……
誰にも必要とされない……!!
そんなの……いや……!!!」
蒼い光が乱れ、影夕凪の形が歪んでいく。
扉が悲鳴のような轟音を上げた。
真白が叫ぶ。
「影夕凪の存在が不安定になってる!!
夕凪ちゃん本人が“選択”したことで、
影の根本が揺らいでるんだ……!!」
朔夜は刀を構える。
「影を斬る……
それが夕凪の未来を守る道なら……
俺は迷わない」
夕凪は朔夜の手を掴み返す。
「お兄ちゃん……
影ちゃんを……消すんじゃなくて……
救ってあげて……
だって……
影ちゃんも……わたしだから……」
朔夜は目を閉じ、
静かに呼吸を整えた。
(夕凪の願いが……俺の刃を導く)
そして目を開く。
その瞳は、かつてないほど強かった。
「影よ。
夕凪の涙を背負ってきた“もうひとりの夕凪”。
お前の痛みを無視しない。
夕凪の“未来”のため……
俺がお前と向き合う!!」
影夕凪が絶叫し、
その叫びと共に巨大な蒼翼が広がった。
最終決戦——
兄妹の選んだ未来のための戦い
ついに始まる。




