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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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38/110

第21話(表) 『心臓領域・兄の叫び』

蒼い光が荒野を裂き、

視界が白に包まれた——

次の瞬間、朔夜は“何もない世界”に立っていた。


音もなく、風もない。

上下の区別すら曖昧で、ただ蒼い膜が脈動を繰り返している。


(……ここが、扉の内側……)


朔夜は手を握る。

指先がしびれるほどの圧力。

まるで空間そのものが意志を持っているようだった。


そのとき——


『——お兄ちゃん……』


夕凪の声が、確かに聞こえた。


朔夜の胸が締めつけられる。


「夕凪!!

 どこだ……返事をしろ!!」


声は震え、深い場所から返ってくる。


『こわい……

 お兄ちゃん……たすけて……』


その声に導かれるように、

朔夜は前方の蒼い階段を駆け上がった。


走るたび、

夕凪の痛みが胸に突き刺さる。


(夕凪……今行く。絶対に行く……!)


しかしその途中、

耳の奥に別の声が入り込む。


『……朔夜……来るな……!』


蓮の声。


「蓮……!?

 お前、どこにいる!!」


蓮の声は混線し、苦しげだった。


『影が……暴れてる……

 夕凪……泣いてる……

 でも俺は……選べない……!!』


朔夜は息を呑む。


蓮は夕凪を助けるために扉へ来た。

その気持ちを朔夜も知っている。


しかし——

蓮の声は明らかに“壊れかけ”ていた。


(蓮……お前……どうしてそこまで……)


胸に複雑な感情が渦巻いた瞬間、

蒼い膜が大きく裂けた。


そこに現れたのは——

大量の“影”。

すべて、夕凪の姿をしていた。


朔夜は身構える。


「……これが……夕凪の……?」


影の一体が朔夜を見つめた。


『お兄ちゃん……どうして……

 助けてくれなかったの……?』


その声は、まぎれもなく夕凪のものだった。


朔夜は喉が締まるような痛みを覚えた。


「違う……夕凪、それは……!」


影は微笑むと、

まるで幼い頃の夕凪のような声で囁く。


『私はね……ずっと……

 “気づいてほしかった”んだよ……?』


朔夜は震える拳を握った。


「気づいていた……!

 気づいていたんだ!!

 だけど俺は……

 俺は力が足りなかった……!!

 だから必ず取り戻すと決めた……!!」


その叫びに、影たちがうねる。


まるで朔夜の感情に共鳴するように。


『お兄ちゃん……苦しい……

 たすけて……』


『蓮くんが……泣いてるよ……』


『わたし……どっちも失うの……?』


無数の夕凪の声。

その全てが、朔夜の心を切り裂いた。


(夕凪……お前……どれだけ……苦しんで……)


朔夜は歩みを進める。


「泣くな……

 夕凪。

 お兄ちゃんが迎えに来た」


影たちの中心が光った。


蒼い光の奥——

朔夜は“本物の夕凪の気配”を感じとった。


しかし同時に、

“異質な波動”が近づいてくる。


まるで、朔夜を拒むような。


影夕凪の声だ。


『来ないで……朔夜さん……

 蓮くんは……“私が”守るの……!』


朔夜の目が鋭く光る。


「お前か……

 蓮を苦しめているのは……!」


影夕凪は、夕凪そっくりの泣き顔で告げた。


『朔夜さんは……夕凪を一番にする。

 蓮くんは……それを止める。

 だったら……私は蓮くんの“夕凪”になる……!』


朔夜は刀に手をかける。


「影よ……

 夕凪を……蓮を……惑わすな……!!

 俺はお前を——斬る!!」


影夕凪が悲鳴を上げ、

扉全体が震えた。


夕凪の声が混じる。


『お兄ちゃん……やめて……!

 その子……わたしの……“心の影”なの……!!』


朔夜は一瞬、動きを止めた。


影夕凪が涙を流す。


『ねぇ……朔夜さん……

 夕凪はもう……壊れちゃうよ……?

 蓮くんも……壊れちゃう……

 あなたは……どうするの……?』


朔夜は、刀を握る手に力を込めた。


「選択なんて……間違ってる。

 夕凪も……蓮も……

 “誰も”壊させない!!」


影夕凪の瞳が揺れる。


『そんなの……できるわけ……ない……!』


「できる。

 俺が兄だからだ」


叫んだ瞬間、

扉の中心が強烈な光を放った。


蒼・紅・白。

三色の光が渦を巻き、

朔夜の身体を飲み込む。


視界が切り替わる。


朔夜は——

蓮と夕凪の“心の渦”へと落ちていった。


ここから先は、

三人の魂が直接ぶつかる領域。


第二部クライマックスが、

いま始まる。

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