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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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第20話(表) 『三国の影、扉前に集う』

扉前線の荒野は、昼夜の境界を失っていた。

蒼い光柱が空を焼き、風は常に震動している。

世界の“心臓”が露わになったような光景だった。


朔夜は荒れた地面を踏みしめ、光柱の中枢へ近づいていく。

夕凪の声が、今はもうはっきり聞こえる。


『……お兄ちゃん……

 こわいよ……こわい……』


(夕凪……必ず行く)


心が焦げるような痛みの中、

朔夜の目に、見慣れた姿が飛び込んだ。


「——朔夜様!」


朱雀院燈子が駆け寄る。

その瞳は、喜びと怒りと不安が混ざり合っていた。


「あなた、どうして勝手に……!

 危険だと……散々伝えたのに……!」


朔夜は静かに言った。


「ここに来るしかなかった。

 夕凪が呼んでいる」


その言葉に、燈子の表情が痛むほど揺れた。


「……やっぱり夕凪様……なんですね。

 私では、届かない……」


朔夜:「燈子、それは違う——」


「違いません!」


燈子は叫ぶように言った。


「私はずっとあなたの隣で戦ってきた。

 あなたを信じ、あなたの判断を支えてきた。

 なのに……!」


燈子は胸元を押さえ、喉を震わせた。


「どうして……私は、声をかけてもらえないのですか……

 どうして……私じゃ……だめなんですか……?」


朔夜は、答えられなかった。


その答えは残酷すぎる。


燈子は涙を堪えながら続けた。


「……私だって、あなたと一緒に戦いたい。

 でもあなたは夕凪様ばかり……

 そんなの……!」


が、言葉は風に消された。


白金の光が上空から降り注ぎ、

その中心に十数名の兵が静かに降り立つ。


ストラタ神殿軍。


その最前に立つ少女——

巫女守人・リシア。


翡翠色の瞳が、朔夜と燈子を一瞥する。


「桜花帝国の皆様。

 ここから先は、ストラタ神殿の“領域”となります。

 一歩も——通しません」


燈子が剣を握る。


「この地は桜花の前線だ。

 勝手な宣言は許さない!」


リシアは首を振る。


「許しは求めていません。

 これは“神託”です」


神殿兵たちが宝珠を掲げ、

扉の光柱がうねるように反応した。


朔夜はリシアを見据える。


「リシア殿。

 ストラタは夕凪を……何に使うつもりだ?」


リシアの表情は変わらない。


「扉を、再び“眠らせる”ためです。

 そのためには、夕凪様を……」


燈子:「封印する気ですね!」


「はい。

 それしか方法がありません」


燈子は前に出た。


「夕凪様は桜花の民だ!

 あなたたちの犠牲にするなど——!」


「犠牲ではありません」

リシアは淡々と答える。

「“世界を救うための必要な措置”です」


朔夜の胸で何かが切れる。


「……夕凪は、渡さない」


リシアは静かに息を吸った。


「——ならば、天城朔夜。

 あなたは“世界”の敵となります」


燈子:「やめろ!

 朔夜様を巻き込むな!!」


リシアは首を振る。


「あなたたちがどう言おうと、

 夕凪様の力は放置できません。

 扉は既に“完全覚醒”の段階に入りました」


光柱が激しく振動し、

空気が震えた。


その振動の中、

リシアは淡い声で呟く。


「そして……もう一人。

 “鍵”に触れつつある者が、扉内へ侵入しました」


朔夜の瞳が揺れる。


「……蓮……!」


その名を呼んだ瞬間、

夕凪の声が朔夜に重なる。


『お兄ちゃん……蓮くんが……きてる……

 こわいよ……たすけて……』


燈子が朔夜の腕を掴んだ。


「朔夜様……!

 これ以上行けば、本当に戻れなくなります!」


朔夜は燈子の手を握り返した。


「燈子……ありがとう。

 でも俺は、行く」


燈子の目から涙がこぼれる。


「……どうして……

 どうして私は……止められない……!」


朔夜は微笑んだ。


「お前が……優しすぎるからだ」


燈子は息を呑む。


その隙に、

朔夜は蒼い光の裂け目に向かって走り出した。


燈子:「朔夜様!!」


リシア:「通しません!」


ストラタ兵たちが宝珠を構え、

光の結界を展開する。


しかし——


扉が叫んだ。


蒼く、赤く、光が入り乱れ、

全てを飲み込むような閃光が走る。


朔夜はその中心へ飛び込んだ。


「夕凪——必ず助ける!!」


荒野に響いた叫びを最後に、

朔夜の姿は光に消えた。


燈子はその場に崩れ落ちた。


「……行っちゃった……

 私……また何も……できなかった……」


リシアはただ静かに、

扉の奥へ進む朔夜の気配を見届けていた。


「すべては“扉”の意志……

 世界は選び直される」


扉は震える。


——三人がついに、同じ“中心”へ向かっている。

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