第19話(表) 『扉前線・三国激突』
桜花帝国北端。
扉前線と呼ばれるこの荒野には、
蒼い光柱が天へ向かって伸び、
その周囲を覆うように地形さえ歪んでいた。
吹き荒れる風は冷たく、
樹木は根こそぎ倒れ、
空気は常に震えるような低音を発している。
朔夜は馬を降り、
足元の大地を睨んだ。
「……ここが、扉の……」
夕凪の声が強くなるのも当然だった。
この場所は、扉の“息遣い”そのものだ。
(夕凪……必ず行く)
朔夜が前へ進もうとしたとき。
「——止まってください、朔夜様!」
鋭い声が荒野に響いた。
朱雀院燈子。
帝国軍装を纏い、決死の覚悟の表情で立っていた。
彼女の背後には、桜蒸甲兵たちが整列している。
朔夜は思わず息を呑んだ。
「燈子……」
燈子は駆け寄り、
朔夜の前に立ちはだかる。
「どうして来たのですか……!
“参謀を外された身”で、勝手に戦線へ……!」
その声には怒りと……悲しみが混じっていた。
朔夜は静かに答えた。
「夕凪が呼んでいる。
黙ってはいられない」
その言葉に、燈子の瞳が揺れた。
「……やはり夕凪様のためなのですね。
私ではない」
朔夜:「違う、燈子——」
「違いません!」
燈子の声が荒野に響く。
「あなたは夕凪様のために動く。
国でもなく、私でもなく……
ただ“妹”のために」
朔夜は言葉を失った。
燈子の顔には、
これまで抑えてきた感情が滲んでいた。
「……どうして……
どうして私だけに、何も言ってくれないのですか……?」
朔夜:「巻き込みたくなかった」
「巻き込まれています!
もう、ずっと前から……!」
燈子の声は震えた。
「私は……あなたの副官で……
あなたの隣にいたかった……
でも、あなたは——」
その瞬間。
大地が、鳴った。
蒼い光柱が大きく揺れ、
荒野の空気が重く圧しつぶされるように沈む。
兵たちが叫ぶ。
「結界が……!!」
「扉が……さらに開く……!」
燈子は剣を抜き、
朔夜を振り返る。
「朔夜様。
もう止められません。
敵は黒鋼だけではありません。
ストラタも動きます……!」
その言葉を証明するように——
蒼光の裂け目から白い光が射し、
数十の影が姿を現した。
白金の衣。
古代式の紋章。
蒼い宝珠を掲げた神官たち。
ストラタ神殿軍。
そしてその先頭に立つのは——
翡翠色の瞳を持つ少女。
巫女守人、リシア。
「桜花帝国の皆様。
これ以上、扉に近づくことは許されません」
その声は静かだが、
確かな威圧を帯びていた。
燈子が叫ぶ。
「ストラタ……!
ここで何を——」
リシアは朔夜を見つめ、
一歩前に出た。
「天城朔夜様。
あなたは“扉を開く者”の近くにいすぎる」
朔夜の心が強く揺れた。
「扉を……開く者……?」
リシアは言う。
「夕凪様だけではありません。
あなたもまた、扉の力に触れつつある。
だから——“止めなければならない”」
燈子が朔夜の前に立つ。
「リシア殿!
朔夜様を敵と見なすなど……!」
リシアの声は悲しげだった。
「本意ではありません。
ですが扉はすでに、
あなた方の想像を超えて“目覚めている”のです」
その時。
蒼い光が、朔夜の胸に突き刺さるように響いた。
『……お兄ちゃん……
たすけて……』
夕凪の悲鳴。
同時に——
別の声が重なった。
『朔夜……来い……!』
蓮の声。
二つの声が朔夜の精神を引き裂くように響く。
朔夜は膝をつき、頭を押さえた。
「……く……っ……!」
燈子が支える。
「朔夜様!!
しっかり……!」
リシアは静かに目を閉じた。
「——始まってしまいましたね。
“鍵の呼び合い”が」
扉が、揺れる。
蒼光が荒野全体を包む。
桜花帝国軍。
ストラタ神殿軍。
そして、扉の奥から迫り来る影。
三つの存在が——
ひとつの地点に収束した。
戦記の歴史が、
この場所から変わっていく。




