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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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33/113

第16話(表) 『桜花反攻計画/揺れる帝国』

桜花帝国・参謀本部の大広間では、

かつてないほどの怒号が飛び交っていた。


蒼光の異変、黒鋼連邦の混乱、

そしてストラタの“奪取宣言”。


三国が同時に揺らぐこの状況に、

帝国の強硬派は興奮すら覚えていた。


「今こそ黒鋼を叩く好機だ!」

「ストラタが動く前に、扉周辺部を制圧すべし!」

「参謀・天城朔夜は判断が遅い!」


たった一夜のうちに、

朔夜は“帝国の冷静な頭脳”から

“足手まとい”へと扱われ始めていた。


その中心で、朔夜は黙って会議の内容を聞いていた。


——すべては、夕凪のためだ。


だがその本音を口にすることは許されない。

参謀としての面目を保つために、

朔夜は人前で感情を殺し続けた。


しかし、燈子はそれを見逃さなかった。


「朔夜様……。

 あなたの判断が、この国の命運を左右するのですよ?」


燈子の声は、いつになく冷たかった。


朔夜:「わかっている」


燈子:「本当に、わかっているのですか?」


その静かな問いに、

会議室が一瞬だけ静まり返る。


燈子は会議の場にも関わらず、一歩前へ出た。


「蒼光の夜から、あなたは変だ。

 報告書を改ざんし、

 ストラタの警告も退け、

 強硬派の意見にも乗らず……」


強硬派の将軍たちがざわめく。


燈子は朔夜だけを見つめていた。

怒りでも、疑いでもない。

もっと深いものだった。


「……朔夜様。

 あなたは、一体何を守っているのですか?」


朔夜の胸に、その言葉は突き刺さる。


「国か。

 民か。

 それとも——誰かひとりのためか」


朔夜の表情が、わずかに揺れた。


参謀本部の重鎮たちがざわつき始める。


「燈子少尉! 無礼だぞ!」

「参謀殿に私情などあるものか!」


しかし燈子は下がらない。


「私情があるからこそ……

 朔夜様は苦しんでいる。

 私はずっと、それを見てきました」


朔夜は息を呑んだ。

それは、誰にも触れられたくなかった領域。


燈子は続ける。


「どこで夕凪様を匿っているのですか?」


会議室の空気が凍りついた。


しんと静まり返る中、

朔夜は——沈黙した。


燈子はその沈黙を、答えとして受け取った。


「……やはり」


その声には怒りはなかった。

ただ、痛みだけがあった。


「あなたは……私にだけ言わなかった。

 私を信じてくれなかった。

 それが……悔しいのです」


朔夜の胸が軋む。


燈子は深く息を吸い、参謀たちへ向き直った。


「——黒鋼が動きます。

 扉周辺の防衛線を、桜花は即刻強化すべきです。

 これは私の、参謀補佐としての進言です」


朔夜が口を開こうとすると、燈子が遮る。


「朔夜様が迷われているのなら……

 私が動きます」


その決意は固かった。


朔夜の視線は燈子の横顔に吸い寄せられた。

そこには、かつて隣で戦略を組み上げた“相棒”の表情はなかった。


——燈子。

——お前まで、巻き込んでしまった。


燈子は参謀本部を出る前、朔夜へ小さく言葉を残す。


「……私はあなたの副官です。

 でも、あなたが帝国を危険に晒すなら……

 あなたでも止めます」


扉が閉まる。


朔夜は動けなかった。


参謀としての責務。

兄としての愛。

燈子の忠誠と痛み。


すべてが心を切り裂く。


そのとき——


『……お兄ちゃん……』


夕凪のかすかな声が、朔夜の頭を揺らした。


朔夜は拳を握る。


「……待っていろ、夕凪。

 俺は、お前を失わない」


その瞬間、

帝都の結界が低く鳴動し、青い光が走った。


黒鋼が動いた。

ストラタも動いた。

桜花も動き始めた。


そして朔夜の心も、もう戻れなくなっていた。

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