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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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第15話(表) 『神殿の使い・再会の予兆』

蒼光の余波が収まらないまま、桜花帝国は戦場へ向かう準備を加速していた。

帝都の結界は青白く揺れ、桜蒸塔は異常な脈動を続け、

陰陽庁の術士たちは連日倒れながら作業を続けている。


参謀本部は、まさに戦の前夜だった。


——黒鋼連邦が動く。

——ストラタも動く。

——そして桜花も動かざるを得ない。


だが、その渦中で最も揺れていたのは、朔夜自身だった。


参謀としての責務と、

兄としての願い。


両方が突き刺さるたび、心が少しずつ削られる。


そこへ、燈子が駆け込んできた。


「朔夜様、黒鋼連邦の北端で地脈の断裂を確認!

 桜花側にも揺らぎが及んでいます!」


「……扉に近い位置か」


「はい。

 そして——中立国ストラタの神殿軍が、国境付近に集結しています」


朔夜の胸が跳ねた。


「リシアか……!」


「急ぎ、参謀会議を——」


燈子が言葉を切った瞬間、参謀本部の扉が強く叩かれた。


「天城朔夜殿。

 ——ストラタ神殿・巫女守人、リシア・ストラタ。

 再び参上いたしました」


冷たい翡翠色の瞳が、扉越しでも分かるようだった。



会議室。


朔夜、燈子、そしてリシア。


三者の緊張が、空気を切り裂いていた。


リシアは淡々と口を開く。


「扉の震動は加速しています。

 夕凪様の精神が限界に近づいている証拠です」


朔夜は拳を握った。


「……夕凪を返せ、と?」


「はい。

 今ならまだ、“封印”で済みます」


燈子が椅子を蹴り立ち上がる。


「封印……?

 この国の民を、巫女を、そんな扱いにするつもりですか!」


「感情論は不要です。

 扉が完全に開けば——大陸全土が死にます」


リシアは本当に淡々としていた。

その静けさが、逆に重かった。


朔夜は深く息を吸い、答えた。


「リシア殿。

 夕凪は私の妹だ。

 誰にも——渡すつもりはない」


リシアは一瞬だけ、悲しげな表情を見せた。


「……では、こうお伝えします。

 ストラタは、夕凪様を“奪取”します。

 黒鋼連邦が動くより前に、必ず」


燈子が剣に手をかけそうになる。


「あなた……それは宣戦布告と同じ——」


朔夜が手を伸ばし、燈子を制した。


「落ち着け、燈子」


しかし燈子の瞳は、リシアではなく朔夜を見ていた。


「……ねえ、朔夜様。

 どうして、黙っていたんですか?」


朔夜は呼吸を止める。


「夕凪様が扉と“繋がっている”と知っていたんですよね。

 だから報告を改ざんしたんですね」


朔夜は目を閉じた。


燈子の声は震えていない。

ただ静かに、真実を突きつけてくる。


「私はあなたを信じていました。

 参謀としても、人としても。

 でも……私だけ、置いていったのですね」


その言葉は、刃のようだった。


朔夜はすぐに答えられなかった。


燈子の表情が曇る。

それは怒りではなく、ただ悲しさだけだった。


リシアが静かに会話を断ち切る。


「時間がありません。

 黒鋼連邦の影機関が“鍵”の奪取を開始します。

 桜花が動かないのなら——ストラタが動きます」


朔夜の視線が鋭くなった。


「……ストラタが夕凪を奪うことはさせない」


リシアは、冷たい翡翠の瞳を朔夜に向けた。


「あなたが兄である前に——参謀ならば。

 感情より、大陸の未来を優先すべきです」


燈子がそっと目を伏せる。


朔夜は答えなかった。

答えられなかった。


そしてリシアは深く礼をした。


「次に会う時、

 私は“敵”として現れるでしょう」


扉が閉まる。


残されたのは


揺れる朔夜


疑う燈子


迫るストラタ


そして——


「桜花帝国は、このままでは沈む」


朔夜は、ようやくその事実を理解し始めていた。



会議室を出た瞬間、朔夜の耳に届いた。


——“お兄ちゃん……”


夕凪のかすかな声。


朔夜は振り返った。


そこには、禍々しく震える蒼光の残像があった。


「……夕凪。待っていろ。

 必ず迎えに行く」


朔夜の決意が、再び火を灯した。


しかしこの時、彼はまだ知らなかった。


——蓮もまた、彼のもとへ向かっていることを。

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