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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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第14話(表) 『ストラタの影・巫女守人来たる』

桜花帝国・参謀本部は、今日も張り詰めた空気のままだった。

蒼光事件の余波は帝都の結界にも影響を与え、陰陽庁は連日徹夜稼働。

参謀本部の会議室では、強硬派が「黒鋼への反攻」を叫び、

そのたびに朔夜は沈黙を選ばざるを得なかった。


——夕凪を守る選択は、参謀としての正しさとは反する。


だが、失うわけにはいかない。

二度と。


そんな思考を遮るように、燈子が早足で駆け寄ってきた。


「朔夜様。緊急連絡が……中立国ストラタより、特使が到着しました」


「ストラタが?」


朔夜は思わず眉をひそめた。

中立を貫く彼らが帝都へ来ることなど、まず無い。

しかも、この蒼光の余波が収まらない時期に。


「……案内してくれ」


燈子が静かに頷き、朔夜を別室へと導いた。



部屋に入った瞬間、空気が変わった。

砂金の髪を肩まで流し、白と淡金の巫女衣装を纏う少女が一人、

静かに座していた。


翡翠色の瞳が、朔夜をまっすぐに刺す。


——これが、ストラタの巫女守人。


少女はゆっくりと立ち上がり、胸に手を当てて名乗った。


「ストラタ神殿・巫女守人 リシア・ストラタと申します」


柔らかな声なのに、どこか凛としていた。

燈子は自然と背筋を伸ばす。

朔夜もまた、ただならぬ気配を悟った。


「……遠路はるばる、何の用件で?」


リシアは淡々と答えた。


「——扉が動きました」


その一言で、室内の空気が変わった。

朔夜の表情がわずかに揺れる。


だが続く言葉は、さらに冷たく鋭い。


「扉が動いたのは、〈鍵〉が目覚めた証。

 夕凪様が反応したからです」


燈子が息を呑む。

朔夜の心臓が跳ねた。


「……どうして夕凪の名を?」


「もちろん、知っています。

 あなたが——夕凪を隠していることも」


燈子が朔夜を見る。

その瞳には、驚愕と……疑念。


朔夜は静かに呼吸を整えた。


「夕凪は……帝国の民であり、私の妹だ」


リシアの表情がわずかに柔らいだ。

だが次の瞬間には、再び鋭い眼差しに戻る。


「——だからこそ、差し出してください」


燈子:「なっ……!」


「夕凪様は、“再生装置”として扉に喰われようとしています。

 このままでは、世界が揺らぎます。

 彼女を守るためにも、封印が必要です」


朔夜の胸に、耐え難い痛みが走る。


夕凪を“封じる”?


そんなこと——できるわけがない。


「断る」


迷いのない一言だった。


リシアの翡翠色の瞳が、深く揺れた。


「……そう、ですか」


その瞬間、燈子が言葉を絞り出す。


「朔夜様……夕凪様を匿っていたのは、本当なのですか?」


朔夜は答えられない。

その沈黙が、何よりの答えだった。


燈子は拳を握りしめる。


「……どうして、私にだけ何も言わないのですか。

 私は、あなたの副官です。

 あなたが誰よりも信頼していると、思っていました」


声は震えていた。

怒りでも、裏切りでもなく——純粋な悲しみ。


朔夜は視線を落とした。


「……すまない。

 お前を巻き込みたくなかった」


燈子の表情が変わる。

それは短い沈黙でしかないが、何よりも重かった。


リシアが静かに言葉を重ねた。


「——夕凪様は、いずれ“扉の向こう”に呑まれます。

 あなたが拒んだ以上……ストラタは自ら行動します」


「どういう意味だ?」


リシアは翡翠の瞳で朔夜を見据えた。


「夕凪様を“保護”する。

 あなたがた桜花帝国より先に」


燈子が剣に手をかけた。


「脅しのつもりですか?

 ここは桜花帝国の——」


朔夜が手で制す。


リシアは深く礼をし、扉へ向かう。


そして最後に振り返り、静かに告げた。


「朔夜様。

 夕凪様を救いたいのなら——急いでください。

 次に動くのは、黒鋼でも桜花でもない。

 我らストラタです」


扉が閉まる。


残された沈黙は、底なしに重かった。


朔夜は拳を握りしめる。


——夕凪を奪われるわけにはいかない。


その決意は、燈子の胸にも深い影を落とした。

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