表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/110

第13話『桜花帝国・揺れる参謀本部』

蒼光が世界を覆った夜から、まだ数日しか経っていない。

だが桜花帝国の参謀本部は、まるで開戦前夜のような空気に満ちていた。


戦略地図の前では将軍たちが声を荒げ、陰陽術士は異常な地脈反応を何度も報告し、

桜花蒸塔は不穏な脈動を続けている。


その渦中、天城朔夜は静かに書類へ目を通していた。


しかし彼の指は、わずかに震えていた。

書類に並ぶ数字ではなく——

耳に残るあの声のせいだ。


『お兄ちゃん……』


夕凪の声。


蒼光が世界を包んだあの瞬間、確かに聞こえた。

朔夜の心臓を掴むような、あまりに懐かしく、あまりに痛い声。


……だがそれを報告できるはずがない。

参謀としての冷静さより、兄としての想いが勝ったことを知られてはならない。


朔夜は報告書に手を伸ばし、筆を走らせる。


——“音声的異常反応、確認されず”。


そのとき。


「……朔夜様」


扉を叩く音とともに、凛とした声が響いた。


朱雀院燈子。

参謀本部付きの副官にして、朔夜の右腕。


「入れ」


燈子が姿を現すと、室内の温度がわずかに変わった。

黒髪を低く束ね、赤い装飾の軍服をきっちりと着こなし、

端正な表情はいつもの通り——しかし目だけが鋭く光っていた。


「先ほどの報告書……確認してもよろしいですか?」


「……構わない」


燈子の指が、書類の一行で止まる。


“異常反応なし”


瞬間、彼女の眉がわずかに動いた。


「朔夜様。蒼光発生時、城下で多数の“音響反応”が観測されています。

 陰陽庁の記録にも同様の数字があります。それなのに……」


「——私の判断だ」


朔夜は短く遮った。


燈子はさらに踏み込む。


「では、なぜ“なし”と?」


その問いは鋭かった。

だがその裏には、朔夜を信じたいという想いも滲んでいた。


朔夜は視線を外すことなく、静かに答えた。


「帝国の動揺を避けるためだ。今は、余計な波紋を起こすべきではない」


燈子は一拍置き、真っ直ぐ朔夜を見る。


「……本当は何が起きたのですか?」


胸の奥に刺さる言葉。


朔夜は知らず、窓の外——蒼光を見た方向へと視線を流していた。


——夕凪。


言いかけたが、喉で止まる。


兄として叫びたい本音が、参謀としての理性に押し込められる。


沈黙ののち、朔夜は冷えた声で言った。


「燈子。お前は優秀だ。だが踏み込んではならない領域もある」


燈子の目が揺れる。


「……承知しました」


だが、その“承知します”は服従ではない。


——この人は、嘘をついている。


燈子の瞳は、そう語っていた。


そのとき、緊急警報の鐘が響く。


「帝国北端・千鳥峠で地脈暴走! 黒鋼側にも異常——!」


朔夜は席を立つ。


「行くぞ、燈子!」


「……はい!」


だが燈子の心には、確かな疑念が宿っていた。


——朔夜様は、何を隠している?

——あの蒼光の夜に、何を“聞いた”のか?


参謀本部の空気は、さらに張り詰めていく。


そして。


大陸の均衡は、この日を境に静かに崩れ始めていた——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ