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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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8話 邂逅 ― 黒影の中の幼馴染

影風谷の最深部へ踏み込んだ瞬間。


朔夜は、空気が“切り替わる”のを感じた。


霧が裂け、谷風の音が止まる。

まるで谷そのものが息を潜めたようだった。


鷹守が低く囁く。


「……天城。

 ここに“いる”な」


伊吹は喉を鳴らし、明朱は札を握る手を強く震わせる。


朔夜はわずかに頷き、前へ出た。


(来い……蓮)


谷底を照らす蒼光が、

風に揺れながら深い影を作る。


その影の中心に――


スッ……


黒い外套が揺れた。


同時に、

冷たい金属音が響く。


カチィン――!


短剣の柄を握り直す音。


朔夜はその“癖”を知っていた。


(……間違いない)


霧が薄れ、影が輪郭を持ちはじめる。


長身。

黒い陣羽織。

額に落ちる前髪。

静けさの奥に燃える焦燥。


蓮――

刃向蓮が、そこにいた。


朔夜は息を飲んだ。


(本当に……来たんだな)


蓮の眼は、幼い頃と同じ色だった。

ただ、その奥に深い闇が宿っている。


◆ 「……朔夜」


蓮が口を開いた。


その声は、

膝が砕けるほど懐かしく、

胸が痛むほど遠かった。


「朔夜……来るな。

 ――ここから先は、行かせない」


見た目は黒鋼の士官。

声は敵を拒む軍人のもの。


しかし朔夜には分かった。


(違う……“止めたい”んじゃない。

 “殺したくない”んだ)


朔夜はゆっくりと歩を進めた。


「蓮……

 お前は本当に――敵なのか?」


蓮の瞳が揺れた。


「敵だ。

 ……黒鋼の刃向蓮として、お前を止める」


そう言いながら、

蓮の手は震えていた。


短剣を握る指が、

必死に強がりを作っているように。


◆ 刃の交錯


朔夜は剣を構えた。

だがその刃は、蓮へ向けられていない。

いつでも防御に切り替えられる形。


蓮の眉がわずかに動く。


「……殺す気がない顔だな」


朔夜も返す。


「お前こそ、殺す気がない動きだ」


二人は同時に踏み出した。


カンッ!!


刃が火花を散らす。

しかしどちらも“殺意”がないため、

力の方向は避け合い、逸れ合う。


蓮の足捌きは鋭い。

だが明らかに、朔夜の急所を外していた。


朔夜も胸が痛むほど分かった。


(蓮は……“俺を生かす戦い”をしている)


蓮も感じていた。


(朔夜は……“俺を殺さずに進もうとしている”)


次の瞬間、

蓮が低く吐き出すように言った。


「……邪魔だよ、朔夜」


「どの口で言うんだ」

朔夜は静かに返す。

「道を“わざと空けていた”のはお前だ」


蓮の瞳が揺れた。


「違う……違うんだ……

 俺はお前を守ろうとして――!」


「だったら道を開けろ!」


蓮の呼吸が止まったようになった。


朔夜の声が、

怒りでも悲しみでもなく

“必死さ”で震えていたからだ。


◆ 夕凪の呼ぶ声


その時。


谷の奥で――

蒼光が爆ぜた。


ズンッ!!


明朱が悲鳴を上げる。


「また反応……! 夕凪ちゃんの結界が崩壊寸前よ!」


伊吹が叫ぶ。


「天城参謀!

 急がないと……!」


朔夜の胸が焼けるように熱くなった。


夕凪の声が、

確かに聞こえた。


『……お兄……ちゃん……』


(夕凪!!)


朔夜は蓮を押しのけようと踏み込む。


「どけッ!!」


「――ッ!!」


蓮は反射的に剣を交差させて防御した。


カァン!!


火花が散る。


蓮の顔は苦痛に歪んでいた。


「朔夜……! お前が行けば……夕凪は……!」


「お前が止めれば、夕凪は壊れる!」


蓮は呼吸を失い、足が揺れる。


「……俺は……

 どうすれば……いいんだよ……!」


朔夜の声が返る。


「蓮。

 お前が“守りたい”のは――

 夕凪だろう?

 俺だろう?」


蓮の肩が震えた。


その瞬間、

谷の奥から別の声が響く。


「蓮やァ。

 何をしておる?」


宗六の声。


蓮の背筋が凍った。


朔夜は歯を食いしばる。


(宗六……!

 今ここで蓮を――壊す気か)


蓮は剣を震わせたまま、

朔夜と宗六の間に立ってしまっていた。


まるで、

二つの“刃”の真ん中で潰れそうに。


◆ 朔夜の決断


朔夜は深く息を吸い込んだ。


「蓮。

 今、お前は――“選べる”。」


蓮が顔を上げる。


「……選べる?」


「俺と一緒に夕凪の元へ行くか。

 宗六に従って夕凪を壊すか。

 選べ」


蓮は震えた。


涙に似た光が、瞳に溜まる。


「……俺は……

 俺は……!」


その瞬間――

谷の奥から蒼い轟音が響き渡った。


ズギィィィィン!!


夕凪の結界、崩壊前の“断末魔”。


蓮と朔夜、

二人の心を同時に切り裂く悲鳴。


朔夜は叫ぶ。


「蓮!!

 “選べ”!!!」


谷の風が、

二人の運命を裂くように吹き荒れた。


蓮の口が、震えながら開く。


「朔夜……俺は――!」


(つづく)

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