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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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5話 導かれた尾根 ― 邂逅の蒼風

夜明け前の空は、まだ暗かった。

だが山脈全体が、薄い蒼さを帯びているように見えた。


蒼風調査隊は、夜の闇を裂いて進んでいた。


目指すは――黒鋼領へ通じる“獣道”。

監視が薄い代わりに、危険も多い道だ。


鷹守が先頭で手を上げる。


「ここだ。気を抜くなよ」


岩壁と断崖に挟まれた細い尾根道。

普通なら絶対に選ばない、危険すぎる道。


だが朔夜は、この道を選んだ。


(お前が……導いたんだろ、蓮)


胸の奥で、風がひときわ鋭く吹いた。


◆ 獣道突入 ― “不自然な静寂”


隊は尾根へ入り、慎重に進んだ。


岩場に足音が吸われる。

谷底からは冷気が這い上がり、

背後には夜がゆっくりと迫ってくる。


伊吹が周囲を見回しながら言った。


「……変ですね」


「何が?」

明朱が問う。


「敵の気配が薄すぎる。

 普通なら、黒鋼はここと谷道の“両方”押さえるはずだ。

 なのに、ここだけ……妙に静かだ」


鷹守も同意するように低く言った。


「罠にしては雑だ。

 突発的な落石も、魔導罠もない。

 ……まるで誰かが“掃除”した跡だな」


朔夜は、無意識に拳を握った。


掃除。

誰かが、邪魔な罠を片っ端から壊していったような静けさ。


(蓮……

 お前が、そうしたのか)


確信が、胸に落ちていく。

言葉で説明できるものではない。


ただ、風が――

「ここへ来い」と導いていた。


◆ 尾根の奥 ― “読み”の交差


尾根の終わりが近づいた頃、

朔夜は足を止めた。


風向きが変わった。

急に冷たく、鋭くなった。


「……天城?」

鷹守が振り向く。


朔夜は谷の奥を凝視した。


(いる……)


目には見えない。

足跡も音もない。


だが、確かに“何か”がいる。


“読み合い”の気配。

戦場で相対したときだけ感じる、冷たい感覚。


そして――

幼い頃、背中合わせで立ったときと同じ。

蓮の気配。


朔夜は唇を開いた。


「……蓮。

 お前が、ここにいるのか」


その瞬間、谷の奥で黒い影が揺れた。


鷹守が素早く前に出る。


「敵か!?」


「違う……」朔夜は小さく首を振った。

「これは……“確認”だ」


自分たちがこの道を選んだかどうか。

蓮が確認しに来たのだ。


影は音もなく姿を消したが、

確かに“そこにいた”痕跡を残して。


伊吹が震える声で言う。


「天城参謀……

 今の影、何者なんです……?」


朔夜は答えなかった。


答えられなかった。


胸が、ひどく苦しい。


(蓮……

 お前は敵として来たのか。

 それとも……俺たちを導くために来たのか)


どちらにしろ、もう“戻れない”。


◆ 夜明け ― 影風谷、目前


尾根を抜けると、

山脈の谷間がぽっかりと裂けていた。


影風谷。


黒鋼の迎撃部隊が潜む、最初の“戦場”の入口だ。


鷹守が周囲を探りながら言う。


「黒鋼の気配が濃くなってきた……。

 ここから先は、確実に“接触”があるぞ」


明朱も布札を広げ、魔導の風を読む。


「……やっぱり“揺れてる”。

 蒼光の力が、谷全体に広がってるわ」


伊吹が喉を鳴らす。


「迎撃だけじゃない……

 黒鋼は“何か”を運んでる匂いがしますね」


朔夜の胸が急に冷えた。


(夕凪……

 お前の移送が始まるのか)


黒鋼が迎撃を仕掛ける理由は、

“俺たちを近づけたくない”

それしかない。


(蓮……

 俺は行く。

 例えお前が敵として立ちはだかっても――

 進む)


風が、谷から吹き上がった。


ただの風ではない。

“呼び声”のような風。


朔夜は背中の隊に向き直り、

静かに言った。


「影風谷へ入る。

 敵は必ず動く。

 だが――こちらの“読み”も負けない」


三人の班長が頷く。


鷹守「……頼りにしている」


明朱「読み負けたら終わりよ。気を引き締めて」


伊吹「天城参謀がいるなら……いけます!」


朔夜は小さく笑った後、

谷の闇を見つめた。


その奥に――

確かに“彼の気配”がある。


(蓮……

 会いに行く。


 夕凪のために。

 そして――お前自身のために)


蒼風が隊の間を吹き抜けた。


影風谷が、

静かに――だが確実に、牙を剥き始めていた。

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