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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第二部

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第一話 蒼風異変 ― 帝都、揺らぐ兆し

蒼い光が消えてから、一晩が明けた。


桜花帝国・帝都。

朝の城下は、いつものように露店が並び、蒸気車が行き交っている……はずだった。

だが、空気が違った。人々の声が、どこか落ち着きなく揺れている。


「あれ、本当に夢じゃなかったよな……」

「空が、青い炎みたいで……」

「陰陽寮が騒いでるって話だ。何か、良くない兆しらしい」


噂が噂を呼び、不安が街路に薄く積もっていく。

夜明け前に大陸を染めた“蒼い光”は、帝都の民の心に、消えない影を落としていた。


参謀本部の廊下も、同じだった。


いつもなら静かな文官たちの足音に、今日は将校たちの早足が混じる。

書類を抱えた兵が駆け抜け、魔導計測器の数値が印字された紙束が次々と運ばれていく。


天城朔夜は、自室ではなく、まだ冷えた会議室の窓際に立っていた。

昨夜、蒼い光を見た同じ窓だ。


胸元のポケットには、夕凪の《鍵紋》札。

触れなくても分かる。まだ、かすかに熱を持っている。


(やっぱり……あの光は、夕凪の覚醒だ)


考えたところで、答えは出ない。

だが、待っているだけの時間は、もう終わった。


「天城参謀、揃いました」


副官の声に、朔夜は窓から離れた。

参謀たちが座る円卓の中央には、帝国全土の地図。

その上に、新たな印がいくつも打たれている。


尚玄将軍が、低い声で口を開いた。


「昨夜の“蒼光”についてだが……陰陽寮、技術寮、前線各地からの報告がまとまった」


古参参謀が、眉間にしわを寄せたまま紙束をめくる。


「大陸全域で魔導炉の出力が跳ね上がったそうだな。

 桜蒸塔に至っては、平時の三倍……常ならば暴走しておる数値だ」


「だが暴走はしなかった。むしろ“外側”から押さえつけられた形跡がある」

別の参謀が、指先で資料の一点を叩く。


「外側……つまり、帝国の魔導ではない何かに、だ」


尚玄は地図上の一点――帝国領と黒鋼領の境に近い山岳地帯を指し示した。


「蒼光の“中心”と推定される座標だ。ここから黒鋼領の深部へと、ものすごい魔導波が流れ込んだ形跡がある」


朔夜は、その地点を一目見て直感した。


(……黒鋼第七研究区の方角だ)


蓮と夕凪が囚われている、あの場所。


参謀たちの間に沈黙が落ちる。

やがて一人が、それを破った。


「これは、好機ではないか?」


年配の参謀が、静かな口調で言った。


「黒鋼の魔導炉が不安定化しているなら、補給線にも乱れが生じる。

 前線を押し上げる絶好の機会だろう」


すぐに別の参謀が首を振る。


「いや、むしろ逆だ。

 黒鋼が“何かを得た”可能性もある。軽挙は禁物だ」


「わしも同意だ。扉とやらが本当に動き出したのなら、なおさらだ」


議論が揺れ始める。

行くべきか、様子を見るべきか。

攻めるべきか、守るべきか。


尚玄が、朔夜の方へ視線を向けた。


「……天城。お前はどう見る?」


一斉に、円卓の視線が朔夜へ集まる。


朔夜は地図を見下ろし、

蒼光の中心、報告された魔導波の流れ――

そして頭の中で、“蓮ならどう考えるか”を思い浮かべた。


「黒鋼は、混乱している“ふり”をするでしょう」


全員の視線が、少しだけ鋭くなる。


朔夜は続けた。


「魔導炉の不安定化は事実でしょう。でも同時に、彼らは必ず、それを自らの戦力に転じる準備を進めている。

 今、帝国が大軍を動かせば“待ち伏せ”の餌になる可能性があります」


「では、どうするつもりだ?」


尚玄の問いに、朔夜は迷わず答えた。


「少数の“蒼風調査隊”(仮称)を出しましょう。

 前線の一角から、蒼光の中心方向へ向かう偵察を。

 目的は――黒鋼第七研究区と、《扉》の現状把握です」


古参参謀が、眉をひそめる。


「少数で黒鋼の喉元に首を突っ込むと? 無謀にもほどがある」


朔夜は首を振った。


「正面から殴り合うつもりはありません。

 あくまで“風向き”を読む。

 今、大陸を吹いているこの蒼い風が、どこから吹き、どこへ向かっているのか――

 それを知ることが、第二段階の戦いの前提になります」


しばし沈黙。

やがて尚玄が、短く笑った。


「……よかろう。蒼風調査隊、編成を許可する。

 隊長は――天城朔夜、お前だ」


「……はい」


返事は自然に口をついて出た。


参謀としての責務。

帝国軍人としての役割。

そして――兄としての願い。


それらが、ひとつの線に結ばれた気がした。


会議が解散になり、朔夜は廊下に出た。


行き交う兵の足音。

窓の外で揺れる、まだ固い桜の蕾。


胸元の札に触れると、微かな熱が指先に伝わった。


(夕凪。

 今度は……僕の方から、行く)


どこか遠くで、風が鳴いた。

昨夜の蒼光の残り香を含んだような、冷たく澄んだ風だった。


帝都はまだ、表向きは平穏を装っている。

だがその地下では、作戦命令と動員指示が静かに飛び交い始めていた。


大陸を包んだ蒼い残響が、

確かに――新しい戦いの幕を引き上げつつあった。

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