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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第一部 奪われた鍵

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第十二話:扉ノ胎動 ― 蒼き呼び声

雨が止む直前の帝都は、不気味な静けさに包まれていた。


桜灯区の灯りは揺らぎ、

蒸気管の脈動音はかすかに不協和を奏でている。

まるで帝都そのものが、何かの接近を恐れているかのようだった。


天城朔夜は参謀本部の屋上に立ち、

遠くに瞬いた蒼光を見つめていた。


――昨日の戦場。

霧の奥で現れて消えた黒鋼獣。

朔夜を読むような軌道。

刹那に走った“気配”。


(蓮……

 本当にお前なのか……

 会いたいのに……

 会いたくない……

 いや、怖いんだ……)


胸が軋む。


夕凪の札が、脈動するように冷たく震えていた。


(夕凪……

 お前も……感じているんだろうか)


朔夜は札を握りしめ、

ひとつ深呼吸をした。


その瞬間――

帝都の地面がわずかに揺れた。


「……ッ!?」


揺れは小さい。

だがただの地震ではない。


地の底から響くような、

生き物の鼓動のような“脈動”。


――ドゥン……

――ドゥン……

――ドゥン……!!


蒼光が空を裂いた。


参謀本部の全員が振り返り、絶句した。


「な、なんだあれは……!?」


「魔導反応……桁違いだ!!」


「蒼……? 蒼い光……?」


朔夜は息を飲んだ。


(夕凪……)


蒼光は天へまっすぐ伸び、

帝都から遠く離れた黒鋼の研究区域へ焦点を定めていた。


明らかにただの魔導反応ではない。


古代兵器《扉》――

その胎動だった。


「天城参謀!!」


背後から怒号が響いた。

振り向くと尚玄将軍が走ってくる。


「総参謀部から緊急連絡だ。

 黒鋼側に大規模魔導反応、

 位置は――第七研究区!」


朔夜の胸が跳ねた。


第七研究区――

蓮と夕凪が囚われている場所。


「……兄妹の……反応か」


誰かが呟いた。


朔夜は拳を握る。


「行かせてください、将軍。

 彼らは……夕凪は……!」


尚玄は首を振った。


「作戦ではない。

 これは参謀一人で行くべき場所ではない。

 軍全体で動くべき危機だ」


「でも……!」


「朔夜」

尚玄の声が低く圧を持った。

「これは“個人の救出”ではない。

 大陸の運命が懸かっている」


朔夜は唇を噛む。


(分かってる……

 でも……行きたい……行かなきゃ……)


そんな朔夜の葛藤を見透かすように、

鴉丸が影のように現れた。


「参謀殿。

 千影衆はすでに動いた。

 我らの任務は“敵の核心”に忍び込むこと」


「鴉丸さん……!」


「そなたの妹――夕凪殿の反応は、今まさに高まっている。

 おそらく《扉》が目覚めた」


朔夜の心臓が停止したように感じた。


(やっぱり……夕凪が……)


鴉丸が続ける。


「参謀殿。

 そなたが揺らげば作戦は崩れる。

 だが――

 揺れないのも、また危険だ」


「……?」


鴉丸の瞳が鋭く光る。


「“お前の心”を狙っている者がいる。

 黒鋼の影に、そなたを知る者がいる」


朔夜は一瞬だけ息を飲んだ。


蓮の姿が、脳裏に閃いた。


(蓮……

 本当に……お前なのか……

 もし戦場で……お前が……)


鴉丸は背を向け、

風のように言った。


「迷いは斬れ。

 斬れぬなら抱えたまま進め。

 戦場とはそういう場所だ」


朔夜は目を閉じ、

ほんの少しだけ苦笑した。


(……ありがとう。

 僕も分かってるよ……

 迷いは消えない。でも、進む。)


蒼光はますます激しさを増し、

帝都からでも見えるほど太くなった。


地面の振動が大きくなる。


――ドォン……!

――ドォン……!!

――ドォォォン……!!!


「次元震……!? これは本物だぞ!」


「《扉》が……開きかけてる……!」


参謀本部がざわつく中、

朔夜だけはその光を

“祈るような目”で見つめていた。


(夕凪……

 無事でいてくれ……

 蓮……

 お前も……どうか……)


蒼光は爆ぜた。


大陸全土に轟音が響き渡る。


その瞬間――

朔夜の耳の奥で、

誰かの声が微かに響いた。


――……兄さん……


朔夜は息を呑んだ。


(……夕凪!?

 今……確かに……)


だが次の瞬間、

光は吸い込まれるように消えた。


大地の振動も止む。


ただ、風だけが残り、

桜灯の光が揺らいでいた。


帝都は静寂に飲まれた。


尚玄が呟く。


「《扉》が……呼び声を上げた……」


朔夜は震える手で胸元を押さえた。


夕凪の札が熱を帯びていた。


(夕凪……

 お前の声は……届いたよ)


そして朔夜は悟った。


この戦争はもう“国家同士”ではない。

――魂と魂のぶつかり合いだ。


蓮の魂。

夕凪の魂。

そして、自分の魂。


三つの呼び声が、

今まさに“ひとつの扉”へ向かっていた。


朔夜は静かに言った。


「……始めよう。

 第二部の戦いを」


蒼い風が吹き抜けた。


まるで誰かが、

彼の背を押したかのように。

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