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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第一部 奪われた鍵

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第十話 揺れる戦局 ― 過去の影と、開かれゆく扉の気配

帝都・朝刻。

桜灯区の蒸気管が静かに唸り、

夜明けの魔導灯が橙色に光を帯び始めていた。


だがその穏やかな光景とは裏腹に、

参謀本部の空気は緊張で張り詰めていた。


――黒鋼の影機関による参謀暗殺未遂。


その情報は正式発表こそされなかったものの、

内部では“緊急警戒”が敷かれていた。


天城朔夜は資料室で、

昨日拾った夕凪の金属札を見つめていた。


(夕凪……

 お前は本当に黒鋼に囚われている。

 生きている……それは確かだ。

 だが次――何が起きる?)


札の冷たさが指先に鋭く突き刺さる。


(蓮……

 お前も……生きていてくれた)


胸に広がるのは、

安堵でもあり、痛みでもあった。


朔夜は深く息を吸い、

札を制服の内ポケットにしまった。


参謀会議室では、

尚玄将軍が黒鋼の動きを報告していた。


「黒鋼はすでに、補給線の再建に動いている。

 だが今はまだ“隙”がある。

 早期の第二次攻勢を検討すべきだ」


古参参謀が反論する。


「だが帝都に刺客が侵入したばかりだ。

 警備と防衛が先決ではないか?」


「防衛に徹すれば黒鋼の思う壺だ。

 こちらには“鍵紋”の情報がある。

 黒鋼が夕凪を利用する前に――

 打って出ねばならん」


議論は激しさを増していく。


その間も朔夜は地図を見つめ続けていた。


黒鋼の新しい動き。

補給線の修復地点。

蒸気塔の再稼働間隔。

そして――

索敵反応の“揺らぎ”。


(この揺らぎ……

 蓮の読み方に似ている……

 黒鋼は、蓮を本格的に使役し始めている)


胸がズキッと痛んだ。


(蓮……

 次の戦いで、また対峙するのか……)


そこへ尚玄が声を投げた。


「朔夜。

 お前の意見を聞こう」


会議の空気が一斉に朔夜へ向く。


朔夜は地図から目を離さずに言った。


「黒鋼は“次の反撃”を狙っています。

 補給線の再建は表向き。

 実際には――別の目的がある」


「別の目的とは?」


朔夜は静かに札を取り出した。


「夕凪の《鍵紋》を利用した、

 《扉》の起動準備です」


場がざわめいた。


古代兵器《扉》。

桜花と黒鋼が血眼で探す、古代文明の遺産。


黒鋼がそれを起動させれば――

大陸の均衡は崩壊する。


朔夜の声は揺れなかった。


「夕凪が使われる前に、

 黒鋼の研究区画を突き止める必要があります。

 ただし――

 今回は正面からでは届かない」


「ではどうする?」


「敵の“読み手”を分断します」


尚玄の目が細く光った。


(読み手=蓮だと……気づいているのか?」


朔夜は続けた。


「黒鋼の索敵の異常な精度……

 この揺らぎは、個人の“癖”です。

 その人物を戦場から引きはがせれば、

 黒鋼の動きは一時的に鈍る」


古参参謀が鼻で笑う。


「そんな『敵の要を一時的に無力化』など、

 できるのか?」


朔夜は静かに言った。


「できます。

 僕が敵を読んでみせます」


しん――と静まり返る室内。


その表情は若造のものではない。

参謀として覚悟を決めた目だった。


尚玄はゆっくり頷いた。


「ならば――

 第二次作戦《霞桜かおう作戦》を発動する」


「目的は黒鋼研究区画の特定。

 敵の“読み手”の隔離。

 そして――

 夕凪の奪還に繋がる情報の獲得だ」


朔夜は拳を握った。


(蓮……

 夕凪……

 何があっても、前に進む)


会議後、朔夜は桜灯区の外縁部へ向かった。

そこには、

昨日朔夜を救った千影衆の長、鴉丸が待っていた。


鴉丸は空を見上げながら言った。


「天城殿。

 黒鋼の影は……もう帝都の根元まで潜り込んでいる」


「知っています」


「ならば言っておこう。

 次は“揺らぎ”では済まぬ。

 黒鋼は――

 そなたの心を折りに来る」


朔夜は迷わず答えた。


「折れません。

 あの国に奪われたものを、取り戻すまでは」


鴉丸は口元だけで笑った。


「ならば任せよ。

 我ら千影衆は、そなたの影となろう」


朔夜は頭を下げた。


(ありがとう……

 でもこれは僕自身の戦いだ)


その時、

帝都の遠方で微かに“青い光”が瞬いた。


まるで黒鋼の蒸気塔が息を吹き返したような、

不気味な脈動。


(黒鋼……動き始めた……)


嵐の始まる音がした。

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