第5部 第6話(表)
――崩れる中立
崩れたのは、隊列だった。
最前列が踏み越え、後列がためらい、号令が割れる。
桜花は、踏みとどまらなかった。
前へ出る。
押し返す。
「……下げろ」
声は低い。
だが、刃よりも通る。
◇
盾がずれ、槍が乱れる。
無秩序が、露骨に広がっていく。
中立は、
崩れた瞬間に守る理由を失う。
守るものがない陣は、
ただの集団だ。
◇
桜花は、剣を振るう。
狙いは、再び“芯”。
前に出すぎない。
下がらせる。
戻れない一歩を、踏ませない。
◇
敵将が、怒鳴る。
「踏みとどまれ!
隊列を――」
言葉は、届かない。
恐怖と迷いの方が、早い。
◇
桜花は、半歩下がり、線を引き直す。
「これ以上は、進むな」
剣先が示すのは、
攻撃線ではない。
撤退線だ。
◇
数人が、そこを越えて下がる。
続いて、もう数人。
退く者が出た瞬間、
中立の“建前”は完全に壊れた。
◇
桜花は、視線を巡らせる。
まだ戦える。
だが、戦う意味は消えた。
「……十分だ」
それは、勝利宣言ではない。
崩壊の確認だ。
◇
桜花は、剣を下げた。
「引け」
短い命令。
これ以上進めば、
ただの虐殺になる。
第5部の戦は、
分かりやすく止めるための戦だ。




