第5部 第4話(表)
――中立が崩れる瞬間
中立勢力の陣に、ざわめきが走った。
旗は立っている。
だが、隊列は揺れている。
桜花は、歩みを止めなかった。
止まる理由が、もうない。
「……前へ」
声は低い。
だが、迷いはない。
◇
中立を名乗る将が、一歩前に出る。
「我々は、争うつもりはない。
ただ――」
その言葉は、続かなかった。
桜花は、剣に手をかけたまま、視線を外さない。
「中立は、
踏み込まれた瞬間に終わる」
それは、脅しではない。
事実の提示だった。
◇
桜花は、陣の“中心”を見据える。
兵の数。
補給。
退路。
どれも、半端だ。
「守る覚悟も、
退く覚悟もない」
桜花は、淡々と言った。
「だから、
ここは戦場になる」
◇
桜花は、剣を抜いた。
振るうためではない。
線を引くためだ。
「この線を越えるなら、
敵だ」
中立勢力の兵が、息を呑む。
誰も、前に出ない。
だが、誰も退かない。
◇
桜花は、理解した。
この瞬間、
中立は崩れた。
選ばなかったことが、
選択になった。
◇
「……矢上」
「はっ」
「こちらからは動くな。
動いた方が、
中立を守ってやる形になる」
桜花は、一歩だけ下がった。
剣を下ろす。
だが、鞘には戻さない。
「決めるのは、向こうだ」
◇
沈黙が続く。
そして――
一人の兵が、槍を持つ手を震わせた。
それだけで、十分だった。
中立は、崩れた。




