第5部 第3話(表)
――先に踏み込む
夜明け前、桜花は先行部隊の報告を受けていた。
まだ剣は鳴っていない。
だが、時間はもう残されていない。
「……動線を押さえられ始めているな」
矢上が地図を示す。
「中立勢力、街道脇の要衝に前進。
兵数は多くありませんが、
“先に立った”形です」
「それで十分だ」
桜花は、静かに言った。
先に立つ。
それだけで、人は迷う。
迷った瞬間に、被害が出る。
◇
第5部の戦は、待ってはいけない。
第4部なら、
待って、削って、終わらせることができた。
だが今回は違う。
「……矢上」
「はっ」
「こちらから行く。
先に踏み込む」
矢上が、一瞬だけ驚いた顔を見せる。
「交渉を挟まずに、ですか」
「挟まない」
桜花は、迷いなく答えた。
「今は、
言葉より“位置”がものを言う」
◇
桜花は馬に乗った。
剣は抜かない。
だが、隠しもしない。
「中立を名乗る者ほど、
“誰が一番前に立つか”を見ている」
桜花は前を見据える。
「ならば、
一番前に立つ」
◇
先行部隊が動き出す。
桜花自身も、その後ろに続いた。
避難は間に合っている。
守るべき民は、いない。
ここは、
踏み込むための戦場だ。
◇
丘を越えた先に、
中立勢力の陣が見え始めた。
旗が揺れ、
槍が並び、
様子見の視線が飛ぶ。
「……来たな」
桜花は、足を止めない。
「ここで止まれば、
第4部と同じになる」
それは、もう許されない。
◇
桜花は、剣に手をかけた。
抜く理由は、
もうはっきりしている。
「これは、守る戦じゃない。
秩序を戻す戦だ」
桜花は、一歩踏み出した。
それは、
中立を名乗る者たちの前に、
はっきりと示された答えだった。
引き続き、
《雷哭ノ桜花戦記 ― 表裏双章 ―》
表と裏、両方から描いていきます。
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