第5部 第2話(表)
――分かりやすい兆し
昼前、陣に戻った桜花は、まず人の顔を見た。
剣の傷より、心の揺れを見る癖は、もう抜けない。
「……空気が変わったな」
矢上が頷く。
「はい。
第4部の戦が終わったことで、
“遠慮していた連中”が動き始めています」
桜花は、地図を受け取る。
点が増えている。
国境でも、前線でもない場所に。
「ここ……ここもか」
指先が止まる。
街道脇の要衝。
資源と人の流れが交わる場所。
「黒鋼が見ている場所と、重なるな」
◇
伝令が駆け込んでくる。
「桜花様!
西方の中立勢力が、兵を集めています!」
「理由は?」
「“治安維持”との名目です」
桜花は、短く笑った。
「分かりやすいな」
守るためでも、終わらせるためでもない。
取るための理屈。
「矢上。
第5部の戦は、もう始まっている」
◇
桜花は、剣を見下ろした。
第4部では、
抜く理由を削ぎ落とし、
振らない選択を重ねてきた。
だが今回は違う。
「次は、
迷っている暇がない」
分かりやすい敵。
分かりやすい目的。
分かりやすい被害。
読める。
だからこそ、急がねばならない。
◇
桜花は、命じた。
「先行部隊を出せ。
だが、威圧はするな」
「交渉、ですか」
「違う」
桜花は、はっきり言った。
「主導権を取りに行く」
◇
第5部の戦は、
思想の戦ではない。
正義を語る前に、
剣が振られる。
「……黒鋼」
心の中で名を呼ぶ。
「お前が“分かりやすく来る”と言った意味、
よく分かった」
桜花は、前を見据えた。
「なら私は、
分かりやすく止めに行く」
戦は、
もう静かではいられない。
ここから第5部に入ります。
第4部では、
「どう終わらせるか」
「何を引き受けるか」
を中心に描いてきました。
第5部では、
その選択の“結果”が、はっきりと形になっていきます。
戦は、より分かりやすく、
そして、より逃げ場のない形で戻ってきます。
重さは残していますが、
物語としては、前に進みます。
桜花も、黒鋼も、
次は違う局面で、違う判断を迫られます。
引き続き、
《雷哭ノ桜花戦記 ― 表裏双章 ―》
表と裏、両方から描いていきます。
もし「続きを読みたい」と思っていただけたら、
ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。




