第42話(表)
――終わりを示す背中
剣と剣が、最後にぶつかった。
火花が散り、音が山に返る。
桜花は、次の一太刀を選ばなかった。
選ぶ必要がないと、分かったからだ。
◇
黒鋼が、一歩下がった。
退却ではない。
間合いを切るための一歩。
そして――
剣を下ろした。
◇
桜花は、動かなかった。
息を詰め、視線を外さず、その動きを見届ける。
黒鋼は何も言わない。
振り返りもしない。
ただ、背中を向けた。
◇
黒鋼の背後で、兵が一人、また一人と剣を納める。
号令はない。
命令もない。
それでも、動きは揃っていた。
◇
風が抜ける。
張りつめていた空気が、少しだけ緩む。
桜花は、そこで初めて剣を下ろした。
地を指していた刃が、
静かに鞘へ収まる。
◇
誰も、勝ったとは言わない。
誰も、負けたとも言わない。
だが――
戦いは、終わった。
◇
黒鋼の背中は、遠ざかっていく。
堂々と、逃げず、迷わず。
桜花は、その背を見送りながら思う。
「……あれは、悪ではない」
守らなかった。
切った場所もある。
だが、壊さなかった。
◇
桜花は、深く息を吸った。
「行こう」
兵たちが、顔を上げる。
戻る場所がある。
守れたものがある。
それだけで、
次に進む理由としては、十分だった。




