第40話(表)
――削られる覚悟
剣がぶつかる音は、もう雷鳴には似ていなかった。
乾き、重く、短い。
桜花は、息を吐きながら剣を引き戻す。
一撃ごとに、腕がわずかに痺れる。
だが、足は止まらない。
「……重いな」
独り言のように呟く。
黒鋼の剣は、力で押してこない。
速度でも、技でもない。
削りに来ている。
◇
一太刀。
受ける。
返す。
二太刀。
踏み込まれる。
踏み返す。
互いに、決定打を狙わない。
狙えば、どちらかが倒れる。
だが、それでは――終わらない。
◇
桜花は、黒鋼の目を見る。
揺れていない。
怒りも、焦りもない。
ただ、
引き受け続ける覚悟がある。
「……そうか」
理解する。
黒鋼は、
この戦を“勝ち”で終わらせる気はない。
同時に、
“逃げ”で終わらせる気もない。
◇
剣が弾かれる。
火花が散る。
桜花は、半歩下がり、体勢を立て直した。
その瞬間――
胸の奥に、わずかな重みが生まれる。
疲労ではない。
覚悟の摩耗だ。
◇
桜花は、剣を構え直しながら思う。
守るために抜いた剣。
終わらせるために振るった剣。
だが、
この削り合いの中で、
その理由が、少しずつ削られていく。
「……まだだ」
小さく、しかし確かに呟く。
◇
黒鋼が、再び踏み込む。
狙いは、
腕でも、脚でもない。
桜花が立ち続ける理由。
その中心を、
静かに削りに来ている。
◇
桜花は、剣を振るう。
力を込めすぎない。
速さに頼らない。
理由を失わないための一太刀。
剣がぶつかり、離れる。
◇
息が、少しだけ乱れる。
それを、桜花は否定しない。
「……削られるな」
自分に言い聞かせる。
覚悟は、
一度決めたら終わりじゃない。
削られ続けるものだ。
◇
桜花は、一歩前に出た。
黒鋼の剣が、迎えに来る。
この距離。
この圧。
逃げ場はない。
だが、退く理由もない。
「……ここで、折れるわけにはいかない」
それは、誓いではない。
確認だ。
◇
剣と剣が、再び噛み合う。
雷は、もう鳴らない。
だが、
戦は、より深いところへ沈んでいく。
削られるのは、
体ではない。
覚悟そのものだ。
桜花は、歯を食いしばる。
それでも――
まだ、立っている。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
《雷哭ノ桜花戦記 ― 表裏双章 ―》では、
同じ戦を「表」と「裏」、
二つの視点から描いています。
どちらか一方だけでは語れない選択と責任を、
積み重ねてきました。
もしこの物語を
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田舎のおっさんが、
本気で書いている戦記です。
これからも、表と裏、両方を書いていきます。




