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雷哭ノ桜花戦記 ― 奪われた鍵を求めて  (表)  作者: 田舎のおっさん
第一部 奪われた鍵

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第八話 揺らぐ帝都 ― 新たな作戦と、動き始めた影

桜雷作戦が終わった翌朝、

朔夜は帝都・参謀本部の高層棟に戻った。


勝利の報告が上がったことで、

大臣たちは皆、表では喜びを口にしている。

だが、参謀本部内部の空気は、

むしろ重く緊張していた。


――影機関の刺客に、参謀が襲われた。


その事実だけで、

帝都は静かにざわめいていた。


朔夜は机に置かれた資料束をめくる。

その中には、昨日拾った黒い副衣の切れ端と、

夕凪の“鍵紋”が刻まれた金属札が封入されている。


(夕凪の証拠……

 黒鋼にいるという確証……

 絶対に見落としてはいけないものだ)


胸にしまい込んだその札は、

微かに冷たい。


参謀会議室。

古い木材と蒸気パイプが組み合わさった部屋には、

桜花帝国の重鎮たちが揃っていた。


尚玄将軍が中央に立ち、開口一番に言う。


「桜雷作戦は勝利である。しかし……問題はその後だ」


古参参謀の一人が眉をひそめた。


「敵の影機関――

 黒鋼の密偵が戦場に出たのは初だろう?

 参謀が狙われるなど尋常ではない」


「……黒鋼の内部が動いている。

 夕凪の件か、あるいは――」


そこまで言った時、

参謀の視線が朔夜へと集まった。


朔夜は姿勢を正し、報告書を広げた。


「敵が落としていった副衣の縫い目は“操縦士階級”のもの。

 黒鋼獣の操縦士が地上をうろつくことは通常ありえません。

 つまり――」


「――参謀を“狙い撃つ”ために、意図的に降りてきたということだな」


「はい。

 それに……この金属札。

 私の妹・夕凪の“鍵紋”が刻まれています。

 黒鋼が夕凪を扱っている可能性は、極めて高い」


室内の空気が一段階重くなる。


古参参謀が不快そうに言う。


「天城……感情で判断していないだろうな?

 妹の件での思い込みは――」


その声を、尚玄が遮った。


「思い込みではない。

 天城の推論は合理的だ」


尚玄の声は低く重く、

周囲を黙らせる力があった。


「黒鋼が“鍵紋”を扱う理由はただ一つ――

 古代兵器《扉》の制御だ」


その言葉で、数名の参謀が息を呑む。


古代兵器《扉》――

古代文明が残した最大の遺産。

黒鋼も桜花も喉から手が出るほど欲しがる“力の源”。


朔夜が静かに言葉を継ぐ。


「夕凪を取り戻すことは、

 帝国の安定だけでなく――

 黒鋼より先に《扉》を起動させるためにも必要です」


参謀達は互いに視線を交わし合う。


いつの間にか、

朔夜は“若造”ではなく、

国家の行く末を決める存在として見られていた。


会議の終盤、

尚玄が朔夜に手招きした。


「朔夜。

 この札……敵に悪用される可能性もある。

 くれぐれも慎重にな」


朔夜は頷いた。


「はい。

 ですが……この情報を元に、次の一手を打ちたい」


「聞こう」


朔夜は地図を広げた。


「黒鋼は今回、索敵と小隊連携を異常な速度で行ってきました。

 参謀部隊か……あるいは“個人”の突出した才能がある」


尚玄の目が鋭くなる。


「それはつまり――」


朔夜は喉を震わせながら言う。


「……蓮が、黒鋼の“目”として動いている可能性があります」


尚玄は深く息を吐いた。


「お前が感じた“読まれた感覚”か」


「はい」


「だが蓮は……村の焼失時に――」


「死んだと思われていましたが、

 私は……戦場で“蓮の読み方”を感じました。

 間違いありません」


その言葉は、朔夜の心をえぐるように重かった。


尚玄はしばらく沈黙してから、言った。


「……蓮が生きているなら、

 いずれ、戦場で相まみえるだろうな」


「……はい」


胸が刺すように痛む。

だが同時に、どこか救われた感情もあった。


(蓮……

 生きていてくれて、良かった。

 だが――敵なのか?

 それでいいのか……?)


会議を終え、参謀棟を出ると、

古い桜灯がゆらりと光った。


帝都の風は冷たく、

どこか不穏な匂いを含んでいる。


朔夜は札を握りしめ、胸に押し当てる。


(夕凪……僕は必ず、

 お前を見つけ出す。

 そして蓮……

 お前がどんな立場にいようと、

 僕は……答えを見つける)


その時――


帝都の遠方で、

黒い蒸気がわずかに立ち上るのが見えた。


黒鋼連邦の密偵が、

帝都近辺まで忍び寄っている証拠。


朔夜の目が鋭く光る。


(影機関……

 敵はもう帝都の“すぐ側”にいる)


そして朔夜は歩き出した。


影が揺れ、

雷鳴のような気配が胸の奥で脈打っている。


新たな戦いが始まろうとしていた。

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