社会人六年目②
二度目に、心療内科にお世話になった時は、うつ症状が酷かった。自分の身だしなみを整えることが好きだったが、見た目などどうでも良くなった。とにかく全てのやる気がなくなった。
自分の身の回りのことは勿論、家事も疎かになった。料理をすることも好きだったが、作れなくなった。お風呂も入る気力が無くなり、一人でいる時は人知れず泣いていた。外に出ることも億劫になった。周りの人が自分のことを、「蔑んだ目で見ているんじゃ無いか」と思う様になった。常に下を向いて歩いていた。街を歩いていたら、過呼吸を起こしたこともある。自分の中で一番辛かったのは、「希死念慮」だ。希死念慮というのは、わかり易く言えば、「自分の命を断ちたい」と思うことだ。私は幸運なことに、自分の命を断ちたいとまでは思わなかったが、「自分なんて生きている価値など無いんじゃないか」「透明人間になりたい」と日々思っていた。これもある種の希死念慮だろう。うつ症状は、人によって様々だ。最悪なことに、うつ症状から自死を決断してしまう者もいる。これを聞いて、貴方はどう思うだろうか。世間では、苦渋の選択で自死を選ぶ人のことを「メンタルの弱い人だ」「生きていれば良いことあったのに、勿体無い」などと、嘲笑う人がいる。だが、私はそうは決して思わない。何故ならば、私には、自死を選ぶ覚悟も決断力も無かったからだ。その人にとっては、それが一番、自分の心が救われる選択だったのだろう。どうか、黄泉の世界で安らかに眠れていることを願っている。
双極性障害と言うのは、大きく分けて二つに分類される。「双極性障害I型」と、私が診断された「双極性障害Ⅱ型」である。
双極性障害は、気分の高揚や活動的な状態の「躁状態」と、意気消沈や無気力な状態の「うつ状態」を繰り返す病気だ。基本的に、完治することは殆ど無い精神障害だ。適切な治療を受け、日常生活を問題なく送れることができる状態「寛解」を目指すことが必要となる。I型の人は、他人から見ても症状が分かりやすいだろう。主な症状は、他者に攻撃的になったり、後先考えず散財したり、口が達者になったり、全く睡眠を取れなくても活動的に行動したりだ。うつ症状は、II型よりもずっと重い。II型は「軽躁状態」と「うつ状態」を繰り返す。だからこそ、他人は勿論、「自分でも自覚することが困難なのだ」と私は思う。私の軽躁状態は、少々気分が大きくなったり、普段以上に活動的になったりすることだろうと思っている。治療を受けている際に、先生にお叱りを受けたことがある。うつ症状が改善したので、自分の判断で友人との遊びの予定を立て続けに入れてしまった。が、これは間違いだった。その数日後に、また気分の落ち込みが、うつ症状として現れたのだ。それから、多少気分が高揚して、予定を詰め込みたいと思っても踏み止まることにした。
さて、どうやって私は日常生活が普段通りに行えるようにしたのかと言うと、心理士のカウンセリングを受けながら、自分の心が穏やかだと思えることに集中することにした。まず、始めたのは「切り絵」だ。書店で、切り絵のデザイン本を購入し、一人で作業ができるものに熱中した。手先は器用な方では無いので、所々破れてしまった箇所もあったが、出来上がりは自分では満足していた。それから、自分が当時、担当していたジャニーズグループのコンサートDVDなんかも視聴した。好きだと思っていたことが出来なくなったので、最初は流し見程度だったが、その内、自然と楽しめる様になった。バラエティを見ていても気付けば笑えている自分がいた。少しずつ、日常が戻ってきたタイミングで、散歩を始めた。これは、心理士の先生から教わったことでもある。散歩は今でも、日常的にしている行動の一つだ。陽の光を浴びることが、メンタルの安定に大事なのだと言う。その言葉は真理だった。実際に、陽の光の元にいると、活動的になり健やかな状態を過ごすことができている。
そんな治療を受け始めて、半年程経った頃だろうか。主治医からの許可が出たので、外に働き始めることにした。週三回のアルバイトだ。金券ショップでアルバイトを始めた。
生活費はどうしていたのか、気になるであろう。家賃や食費などの生活費は彼氏が全て担ってくれた。しかし、全て支払って貰うのは申し訳ない気持ちがあったので、水光熱費だけは私の貯蓄から出していた。年金は免除申請を行い、全額免除とまではならなかったが、猶予が与えられた。住民税と、国民健康保険は免除申請を行わず、支払った。だが、通院費もそれなりに嵩む。処方された抗精神薬は、双極性障害のうつ状態に効果があるとのことで、当時開発されたばかりの新薬だったので、それなりに金額がした。そこで私はどうしたのかと言うと、「自立支援医療制度」を利用した。自立支援医療制度とは、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する国の公的な公費負担医療制度のことだ。 精神通院医療の他にも、申請できる医療がある。申請した医療機関にかかる時は、一割負担で治療を受けられる。とは言え、精神医療にかかる病院や薬局でしか一割負担ではない。その他の身体の不調が出た時には、一般の方と同じ三割負担だ。この制度に、私は助けられた。そんな日々を過ごしながら、通常生活を送れるように励んだ。




