第7話 ごはん!!! ……ごはん。
「やあシュウマくん。ギルドごはんは満喫したかな?」
俺がぼっちでライ麦パンをもぐもぐしていると、どこかに行っていたミングルが戻ってきた。
お腹空いてる? と聞かれて正直に答えたら、なんかまずギルド併設の酒場で奢ってくれる流れになったんだ。
その好意はマジでありがたいし、たぶんミングルがご飯をくれなかったら餓死してたから文句を言うわけにはいかないんだが……。なんというか、周囲で冒険者たちが談笑しまくってる真ん中でぼっちだぞ。
すげえ虚しいんだけど!! 俺別にぼっちに慣れっこじゃないからな!! しかも同年代くらいの奴らもいるなかでぼっちとか尚更なんだが!?
「……え、いきなりCrampしちゃってどうしたの? えっと、シュウマくんってもしかして神経の病気持ってる?」
「い、いや。……なんでもない。うまいぞ。まだ満喫し終わってないけど」
「うんうん。ボクも少しお腹すいちゃったから、思う存分食べてね! へーいお嬢さん! フィッシュアンドチップスとペールエールを追加で〜!」
なんか、雰囲気がマジで酔っぱらいのおっさんのソレなんだけど。酒も飲めるらしいしバーも経営してるし、もしかしてミングルってけっこう年行ってる感じか?
ほどなくしてスタッフがミングルにお皿を持ってきた。ついでに俺にスマイルとフライドポテトをくれた。
「聞きたいこといっぱいあんだけど」
「なあにー?」
「ミングルってなんか……すごい上の立場のやつなのか? ザンダーとも対等に話してただろ」
仮にもあいつ、ここのギルドマスターらしいしな……。しかもミングルと同じテーブルに座ってる俺にもフライドポテトのサービスが来たくらいだ。フライドポテトに関してはそこまで大きくはないだろうけども。
いろいろ関わってると関わってるだけ、謎が深まってってるな……。
「ボク? ボクはねー、ただのしがない一般冒険者だよ。しかももうRetireしたしね、だいぶ前にだけど。ふふふ」
うおお、こいつフィッシュアンドチップスにビネガーをジャバジャバ掛けてる。うまいのかこの食べ方?
……俺の手元に目をやると、安かったライ麦パンとリンゴジュースしかない。謙遜し過ぎは良くねえな、やっぱ。
「追加注文していいか? これ」
「もちろん! ここはフィッシュアンドチップスと、あとステーキがPopularなんだよ」
「じゃあ俺もそれにする」
「おけー! お嬢さーん、フィッシュアンドチップス追加〜! あとボクにエール五杯くらい!」
いい飲みっぷり……なのか?
いや普通に飲みすぎだろコイツ! グラス一杯でも結構でかいのに、絶対全部合わせたら三リットル超える。
あ、ほら店員にも軽く咎められた。
「え〜、じゃあお嬢さんのカワイイ応援でもいいんだよ〜、ふふふ」
酔ってやがる……。しかも店員もまんざらじゃなさそうなのがなんというか。
結局店員は追加のペールエールを五杯キッチリ持ってきて、ミングルはそれを片っ端から飲んだ。驚き過ぎでフィッシュアンドチップスを味わう心の余裕がねえ……。めちゃくちゃサクサクでおいしいのに、チクショウ。
「んー、シュウマくんもしかしてボクが酔いまくりって思ってる〜?」
「思ってる。てかそれ以外に何があるんだよ、その量の酒飲んで……」
急性アルコール中毒とかになってないのすごいと思うよ俺。うん。
「ふふふ、酔ってないよボク〜。ほら顔赤くないでしょ〜? ほらほら」
そう言ってミングルは自分の頬をむにむにつねる。確かに赤くはない……が。
「別そんなすぐ顔赤くなるわけじゃないだろ」
「え〜? 算数もできるよ。1517✕5283=8014311でしょ、ふふふ」
「分かるか! 俺が計算できねえんだよ」
なぜソロバンプロでもない俺にその掛け算の検証をしろと。まあでも3✕7=21、あと15✕50=70だし、だいたい近い値なのかな。俺がパパッと暗算できるのはこれがせいぜいなんだが。
はあ、フライドポテトもうまいな……ん?
「おい……例の魔道具が二十も売れたぜ」
「二十も? はははっ……やはり早くに『枯渇』に目をつけたあの方は間違っていなかったな」
なんか……あからさまに雰囲気がアレな声が聞こえた気がするんだけど。
「クク……そうだな。さ、これだけ売れればもうここに用はない……さっさと離れたほうがいいな……」
「ああ……お前の相棒にはもう話は通したんだろうな?」
「当たり前だ……さて、行くぞ」
視界の端で二人組が立ち上がり、ギルドの外へ出ていった。
……あのう、俺ちょっとやばい密談聞いちゃったんじゃ? なんか……枯渇に目をつけたとか、なかなかヤバそうなこと言ってたんだが。
「ぽへえ〜……」
ミングルは完全に酔いつぶれてやがるし。……こういうのってザンダーに報告したほうが? いやでも俺、あいつと顔合わせたくない。
机に突っ伏してのびたミングルの猫耳はぴこぴこ動いてる。
「おい、ミングル」
「にゃーん?」
「あの……俺ちょっとヤバいこと聞いた気がすんだが。枯渇とかなんとか」
「にゃおー、そう〜? でもみんな枯渇に関心あるし〜、当たり前だよ〜! うふふ」
空になったコップをひっくり返すミングル。もちろん一滴も飲めない。
……酔ったら生き物こんなになるんだ、酒は飲んでも飲まれるなってすげえ大切なんだね。
「あは〜、風に当たりたいな〜ボク。おさんぽ付き合って〜!」
「まだ俺フライドポテト残ってるんだが……」
「んにゃ、なら待ってあげる!」
俺はミングルの急かすような視線に折れ、結局一気にポテトを頬張って席を後にしたのだった。
……ミングルはおぼつかない足取りでフラフラしながら酒場を抜け――向かった先は、ギルドの二階だ。ちょこちょこ階段から落ちやしないかとヒヤヒヤする羽目になったけど、そこは大丈夫だったらしい。
「無銭飲食じゃね?」
「だいじょぶだいじょうぶ〜! えへへ、ボクってばきちんと約束守るしさ〜、もうお嬢さんとも顔見知りだし〜うふふ」
「理由になってない気がすんだけど……」
二階にもけっこうな人数が行き来しているが、それらはだいたいがギルドの職員で、冒険者ではないらしい。
職員はふらつくミングルを見ても軽く避けるだけにとどまっていたし、なんなら普段通りに笑顔で会釈する人も多い……アレ? こっちの世界では酒に酔ってる人って普通にいる感じ? ぶつからなかったら全然セーフなの?
そのまま廊下の突き当りにあるドアを開き、外へ出た。
「……うおおおぉぉ」
すげえ。
そういえばまだ、この街並みを見てなかったんだな、俺……。
二階のバルコニーは開放感がすごく、まるで空を飛んでいるかのような錯覚を覚えるほどだ。そこから見下ろす街並み――もちろんこっからでも見上げる建物はあるんだが――は壮観のひとこと。
まるで東京のビル街のような、でも建物の作りが全く違う……。見渡す限り、地平線までずっと建物が続いていた。
「……ってミングル、落ちるなよ! ここフェンス低いだろ――」
「大丈夫だって」
すとん、とミングルがバルコニー備え付けのチェアに座った。
「……あれ?」
その雰囲気は、さっきまで悪酔いしてフラフラし、周囲の人間に誰彼構わず絡んでいたのとは全く違う――元のふんわりした快活な少女がそこにいた。
俺がまんまと引っかかったのに気を良くしたのか、かわいいドヤ顔で腕組みをしてこっちを見ている。
「えーっと……酔ってないってマジだったのか?」
「ふふ。ボクがあの程度で酔っ払うわけないじゃない、シラフそのものだよ!」
「……まさか、風に当たりに来たのも」
「そうそう、察しが良いねえ。シュウマくんの話したそうにしてたことと同じ――」
あの怪しい二人組について、か……。




