第6.5話 お空の外から
ニルの仕事は転移・転生の雇われ管理人だ。
昔は自分はれっきとした神で、その時の役職も転移管理人だった。そのノウハウというか、技術を利用しているって形だな。
神のお仕事引退後まで別に働かなくてもいいんだけど、ここにいるのは楽しいんだ。あと、飯に釣られてる気もする。
「……ふう。飯」
ニルの部屋の魔術式ディスプレイには、例のやつが映し出されている。
叶洒柊真、高校三年。日本において平々凡々、特段目立った経歴もないやつだ。まあ、一応成績はそこそこよかったらしい。
今はどうにか人のいるところまで辿り着けたみたいで、冒険者ギルドの酒場でひとりさみしくライ麦パンを食べている。……こうして見てるとすごい哀愁漂うっていうかなんというか。
もうちょい下調べはしとくべきだったか……とは思ったが、まああいつもなんだかんだやれてるな。ハルマントン旧街についてとか。
「――この扉またロックが変わってるね――」
「――ええ、そんなに嫌がられてるの私――」
……うん? 誰か来たな。
ニルの部屋のは厳重にロックが掛けてあるから普通不法侵入はできねーはずなんだけどな……おい、なんかロック解除されたんだけど。
白昼堂々なにをしてんだ。
「ニ~ルちゃんっ! 遊びに来たよん!」
バァン!
扉が勢いよく開け放たれた!
「やほ! にししー」
やってきたのは一人の美女――友人のニコラスだ。身長は、二メートルにはギリ届かんくらいの高さ。背の低いニルとは反対だ。
長い金髪はまるでそれ自体が太陽のようにギラギラ輝いているが、前髪は色が抜け落ちている部分がある。昔に薬品を被ったらしい。
「あのな、人の家のロックを勝手に解除するな」
「相変わらずさっぷーけーな部屋だねえ~」
「……」
話聞け。もう慣れっこだが。
ニコラスはウザいくらいのスマイルのまま部屋を物色したあと、こちらにやってきた。
「なんだ」
「にしし、お久しぶりのぎゅー!」
「ぐえっ」
うわあああ骨がきしんだ!
ハ、ハグはいいけどあの力加減を! ニルは最近牛乳を飲んでないから骨が弱くてうわぁああ肩関節がバキッて言った!
「ニコラス! ストップ! ストーップ!!」
「ええ~?」
ええじゃねーこの阿保! ぐうう、殴るぞ。殴ろうにも肩が痛くて力が入りそうにないけど。
「はあ、なんだ。ニルに用か?」
「うん!」
絶対ただ遊びに来ただけだなコイツ。
「な〜に〜。そんな顔しないでよニルちゃ〜ん。そりゃもちろん遊びに来たのもあるけどさ、ほら! 宅配便をしにきたの!」
「おう。ニルは別にデリバリー頼んだ覚えなんてねーぞ」
「まあまあ」
ニコラスは長い白衣の中から、葉っぱの小包を取り出した。大きな葉っぱで品物をくるみ、ツタを結んだとてもメルヘンな小包だ。
何か、まんじゅうでもくるんでるんだろうか――ニル、コイツの白衣に入ってたまんじゅうとか食いたくないんだが。清潔は清潔なんだけど、何の薬品が混入したかしれたもんじゃねーし。
「えーっとね、送り主がねえ、『思ったより結構ヤバいことが起きる!』って言ってたよ」
「おう、さっぱり分からん」
アバウトすぎだろ。
小包のツタとニコラスがしばらく格闘してたが、結局ほどけずに引きちぎった。そしてその中から姿を見せたのは、ひとつの魔導回路のチップだった。
「ん、なんの魔導回路だ?」
送り主のアバウトさに似合わず、魔導回路はすごく緻密だ。コイツの白衣の中で壊れてたりしそうなのが怖い。組み込まれているパーツもかなりハイグレードな代物で、魔力を蓄積するための魔石は普通に龍クラスを超えてそう。
「応急しょチップ!」
「……」
分かるかっ。
とはいえニコラスも送り主からいろいろ言われたわけでもないみたいだ。コイツに伝言を任せるといっつも忘れんだが、伝言する必要がないアイテムってことなんだろうか。
ともかく、『応急しょチップ』とやらの送り主が誰かがわからねーから、なんともしがたいんだけど……。
「それって誰からなんだ?」
「Mっち」
「……は?」
えっと……なんでここであいつが出てくる?
いや、別におかしくはないけど……。なんだかな、ニルの個人的なジンクスっていうか。
Mっていうのは現役で神界に所属してる神のひとりだ。一応ニルとか今のニルの職場仲間とも仲が良くて、よく遊びには来るんだが……。
「……アイツがこういう意味深な行動を取るってのは……」
絶対になんかあるな。
近々、なにか大きな事件が起こるはずだ――転移させたばっかで右往左往してる柊真が、巻き込まれるようなことじゃなけりゃいいんだが。
ニコラスはニコニコ笑顔で首を傾げた。




