第5話 『ミングル』
……あれ?
いつまで経っても死なないぞ……? あれれ?
俺がゆっくり目を開くと、そこにいたのは。
「……ミングル君」
「別にA級封鎖区域ぐらいどうってことないんじゃない、ねえザンダーおじさん? 現に、このBoyも無傷で帰還したわけだしさ」
一人の少女が、ザンダーの放ったヘビ……もとい舁普を鷲掴みにして立っていた。舁普は手の中でジタバタもがいてるけど、全然逃げられそうにない。
空色の澄んだ髪色で、服装は若干格式張った白いシャツ。後ろ姿だから顔は見えないが……どうなってるんだ? 助けてくれたみたいだけど……どっから出現した?
俺の混乱に答えてくれるように、その少女はこちらを振り向いた。
「ああ、はじめまして! ボクはミングルって言うんだ。キミの味方だと思ってくれていいよ。Greetings♪」
「……よろしく?」
前髪には白い渦状の不思議なメッシュがあり、ネクタイを緩めに巻いているのが見えた。
見た目は快活な美少女って感じなのに、なんというかサラリーマンみたいな服装だな。
そして何より――
「猫耳だ」
「お? キミは獣人を見るのははじめてかな?」
ミングルの頭の上には、一対のかわいい猫耳が存在した。
うわあ、ファンタジー世界だ! 猫耳獣人と生きて出会えるなんて。別に特別好きってわけでもないけど、なんか初めてみると感動するなぁ!
……あー、こんなこと考えてる暇無いな。警戒は怠らないようにしよう、いつまたザンダーが仕掛けてくるかわかったもんじゃない。獣人感動はあとあとだ。
ミングルはわざわざ俺にウィンクをした後、舁普をガレキに向けて投げ捨ててからザンダーへ向き直った。残念ながら、俺は舁普に同情しないからね。
「ミングル君が介入してくるとは予想しなかったけど、これは規定なんだ。理解を求めるよ」
ザンダーは変わらない調子でそう冷淡に言い放つ。メガネの奥の紺色の瞳が、刃物のように鋭く細められる。
……相変わらず怖えぇ……。視線で他人殺せるだろこいつ……立場がけっこう上の方らしいし、実際にそれを実行できるのかもしれない。そうするしかなかったとは言え、よく戦う勇気があったな俺。我ながら結構ビックリだ。
「それに、ハルマントン旧街がS級指定に格上げされようとしているのも、ミングル君が知らないはずもない。そんな所に無断で立ち入ったのなら厳罰は避けられないんだよ」
「ふーん?」
杖の雷が強まるが、ミングルはそれに物怖じした様子もなく腕組みをした。
ただ、彼女のシッポ――なぜか二本ある――は不機嫌そうに、勢いよく揺れている。
「じゃあボクのとっておきの提案――ザンダーおじさん、ボクとConflictする?」
えっ、戦争。
……戦争!? え、なにこいつ。ザンダーってこの国の冒険者ギルドの長だよな? え、戦争できんのこの子?
いやまあ確かに、ミングルが助けに来てくれたのは全然分からなかったし、暗殺とかも得意そうだけど……。
「……」
しかもザンダーさんめっちゃ黙りこくっちゃったよオイ。
あ、もしかしてアレか? ザンダーとミングルが一対一で決闘するってことか? ていうか、そうでもないと理解が追いつかねえんだけど!
ザンダーは目を閉じて少し考える素振りをした後、軽くため息を付いてから頷いた。
……おろ?
「確かにそれは避けたいね。なら、こちらの裁量で処分は保留にしよう」
「おっ! ザンダーおじさん話わっかるぅ!」
「あくまで保留だよ。……それに、私の裁量はそう大きくない。本部からの通達があればその少年の首は飛ぶことになる」
「うん! まあそうならないようにボクがいろいろするからさ。ザンダーおじさんはここのRepair工事して待っとけばいいよ〜」
……おろろろ?
「ひとつ聞かせてくれ。なんでミングル君はその少年をかばう? 知り合いなのかい」
「いや、全然? でも、ちょっとこの人は気になることがあるんだよねえ」
「気になること……?」
「うん! ま、見当違いだったらボク恥ずかしくなっちゃうから、今はBoastは叩かないでおくよ」
…………うん?
これ、マジで助かった感じ? ……ザンダーにボコボコにされずに済むのか?
「マジで助かった感じだよ。ボクに感謝してよね〜、ふふ」
困惑しっぱなしの俺に向かって、ミングルはお茶目にウィンクした。




