第10.5話 雨の日
「しかし、ふむ――ミングルが介入するとは予想外だった」
わたしはギルドマスター室の修理をしながらそう零した。
今、ザンダーと、わたしを含むその使い魔たちは、瓦礫の山と化してしまったギルマス室を修理している真っ最中だ。
もともとザンダーがこうなるのを予想して――本当に万に一つの場合で、実際来ることはないだろうと思っていたのだが――ものをそこまで多く置いていなかったのが幸いした。後で別室の倉庫から運び戻さなくては。
たぶん明日が終わるまでには、このペースでも修理は終わるだろう。
「あー、星胡」
「なにか?」
ザンダーが修理をまた怠けて窓の外を向いている。
「私には実際に、かの少年が特殊な素質を持ってるような気はした――けれど、まだ一般人の域を超えているようには思えないんだよ。なにか気がついたことはあったかな?」
「……わたしも特に感じたことはないが……ふむ、そういうのはわたしより『径岱』のほうが適任だろう」
「んあー? 呼んだー?」
わたしはコップを熱心に磨いているキツネ――径岱に目を向けた。
……わたしたち使い魔にはそれぞれ、得意分野というものがある。わたしの場合は偵察や隠密行動、ある程度の大きさのものの運搬が得意だ。実際、そういう感じの任務を任されている。
それで、あの径岱の得意分野は占い。未来予知や読心術の域まではいかないが、魔法的、霊的なセンスが強いらしい。
わたしは径岱なら何か感づいたかもしれないと思った。
が、径岱は首を振る。
「んーん。おいらその時いなかったしわかんなーい」
「そうか……」
手がかりはないようだ。やはりミングルに直接尋ねるべきだろうか?
彼女は別に敵対関係であるわけでもなく、むしろザンダーとは非常に良好な関係を築いている。
確かにミングルはややわがままで、ザンダーに対しては武力を使ってでもわがままを通そうとするが、結果的にそう悪いことには繋がらない。あのぽやぽやした雰囲気とは裏腹に、かなりの情報を集め、そして自分で色々な可能性を考えて動いているようだ。
今回もおそらくそうなので、わたしたちの関心事はどちらかと言えば、今後の処理よりもあの少年の特別性に向いている。
たぶんザンダーも、ミングルのことをわんぱくやんちゃな孫娘か何かのように思っているのだろう。
「うーむ……ミングル君は今回答えてくれると思うかい?」
「わたしにはなんとも」
それから、彼女にはすこし秘密が多いきらいはある――部外者が聞けば答えてはくれるが、当事者には重要事項を教えないことが多々。
それなりに長い付き合いのわたしも、その意図は教えてもらったことがない。十中八九、あの少年もなぜ助けてもらったのか分からず困惑するだろう。
何の目的があるのかはわからないが、ザンダー曰く「あの目はかなりの覚悟を背負って生きてるよ」とのことだ。
……ミングルの過去もわたしは知らないが、ここシンセシアに来る前に何かあったのだろうか?
――コンコン。
「おや、誰か用事かな」
小さなノック音を聞き、ザンダーがドアを開けた。
そのドアの向こうにいたのは――
「ふふ。もしかしてボクのRumorしてた? さっきからクシャミがとまらなくって〜」
「噂をすれば影が差す、か……」
ミングルは小さくお茶目なポーズを決めながら、こちらに向かってウィンクをした。
またトラブルが舞い込んできたのか、ただ遊びに来たのか――。
……まあ、これもいつものことだ。わたしたちにとっては。




