第9話 おまいう。
「ここだよ〜」
「おお……」
俺がミングルに連れられて入ったバーは、冒険者ギルドからそう離れていないこぢんまりとした建物だった。
曰く地価の理由で大通りに直接店は出せなかったらしいが、そこそこ大きい道で繋がっているしアクセスも悪くない。なかなかいい物件に店だしてるな。
街並みにあわせた古風な外観から想像できる通り、内装も上品で落ち着いた雰囲気。色の濃い木材を使った、大人びた印象のバーだ。棚には高そうな瓶やグラスが陳列されてる。
……あれ割ったら絶対とんでもない額の請求くるよな!? 俺なんか緊張が止まらないんだけど!?
「ふふふ、そんなにNervousしなくていいよ〜。たぶんキミの銃とかぶっ放さなければ割れないから!」
「そ……そんなに頑丈なのかこのグラス」
「高級品だからね! 『耐久』の付与魔法のおかげですごくガチガチなんだ」
エンチャント……便利だなぁ。
「ここのバーは最近はEveryday八時から営業してるよ。シュウマくんも気が向いたら飲んでみてね〜」
「俺未成年だからな」
「大丈夫! このWorldの法律は十五歳から飲酒できるようになってるもん」
「あ、そう……」
まあ飲む気ないけど……。
ミングルは「こっちこっちー!」と手招きしながら、パタパタ足音を立てて奥の部屋に引っ込んでしまった。
……うん? アイツ――うーん、まあいいか。深いことは後で考えよう。
ミングルと同じ扉の奥に行くと、今度は上品なバーから一転、優しげな家が広がっていた。うおう、マジですごい変わりようだな……たぶんミングルはこっちで生活してんのか。
「ここがボクの家だよ! あとねー……もうひとりRoommateがいるんだ。ちょっとまってね、たぶん今ごろ起きる頃だから起こしてくるよ!」
「遅いなおい」
まあ俺も夏休みとかは昼前に起きたりはするけど。
少しすると、別の部屋からミングルが、もう一人の人物を背負って戻ってきた――。
「……なんか変な人がいるな」
「変な人ってなんだよ! 失礼だなお前」
初っ端から変人呼ばわりされるとは。まあもう慣れてるけどさ。
背負われてきたのは一人の少女だった。淡い色の金髪に、血を垂らした宝石のようなどこか闇を秘めた赤い瞳。よく見るとオッドアイで、片目は色が薄いようだ。
服装はひらひらの多い室内着で、その頭にはややねじれた龍のようなツノがあった。右側に一本だけだが、なかなかなんというかカッコイイなあれ。
ツノに加えて鋭い目、あと雰囲気も合わさってけっこう野性的な印象がある――服装はすごくかわいいというか、幼女っぽいんだけど。うーん微妙に似合ってるのか似合ってないのか分からねえな。
「この子も変な子だから気にしないで――ほらクロっち、ご挨拶して」
「……」
クロっち、いいと思う。
ひょいっとミングルの背から飛び降りたのを見ると、クロっちの背丈はミングルのそれより一回りも二回りも大きい。
「うーん……アタイはクロ。記憶喪失で、名前も適当につけたから今度変わるかも。よろしくな」
記憶喪失なのか。
自己紹介中にも少し首をかしげてるのを見るに、なかなか自分自身に疑問が多いらしい。かわいい。
「ちなみにBoyだよ」
「ぶッ」
……マジ? アレか、男の娘ってやつ……? それにしては典型的なそれより身長高いと言うかもう成長してる気もするけど。
「Lieだよ〜、ふふふ」
「殴ってやるぞミングル」
「キャーこわーいシュウマくん!」
……とはいえ確かにまあ、外観は中性的と言うか性別不詳……にも見えるか?
こうやって疑いの心を一回持たないと絶対思わんな。普通に女の子だろマジで。
「えー……俺は叶洒柊真、よろしく頼む。俺は男だよ」
「アンタは見りゃ分かるな」
まあそうか。
クロっちは寝起きでお腹が空いているのか、部屋の隅にあった木箱から個別包装のジャーキーを取り出してかじった。龍だからお肉が好きなのかな。……なんか食べ方ワイルドだなおい、ガツガツ食べてる。
「クロっちってさ〜、いろいろ知らないことだらけなんだよね。あっもしかしてクロっちってUnkindだから教えてくれないのかな〜」
どの口が言ってる。
「飯作ってやってるのアタイ。優しいな?」
「ふふふ、ありがとうクロっち〜」
ミングルに向かってクロっちは凄むも、あんまり通じないようだ。
え? 普通に声にドス効いてて怖かったんですが? ……これがあの龍パワーかな。
あ、そういやこいつが噂の料理してくれる同居人か。別に噂にはなってないけど。
「ってか龍で合ってるよな?」
「さあ?」
「知らねえのか」
「知らねー。アタイ記憶喪失だからな、一応。龍関連の亜人なのか、なんか龍が人間型にこう……変身してるのか? さっぱりでな」
「なるほど……」
結構重症なんだな。
ミングル曰く、クロっちが白金縁の懐中時計を握りしめた状態で枯渇領域内に倒れているのを発見し、保護したという経緯だそうだ。名前の由来は『クロック』――時計しか目立つものを持っていなかったのと、そのフタに刻まれていた文字から。
「枯渇領域お前入っちゃダメだろ……あれ、ザンダーと仲いいみたいだしなんか特別な許可降りてる感じ?」
「降りてないよ! ふふ」
ぱたぱたと手を振って否定するミングル。……じゃあダメじゃん、おい。俺と同じ罪に問われかねないのでは……。
……あれぇ? 俺、こいつに匿ってもらって大丈夫なの!? 取り調べでふたりとも一網打尽にされそうな気しかしねえんだけど!?
「ま、ボクはちょっとSpecialな身分だからね。うらやましいでしょ〜」
「……」
「そんな目しないの〜! あっ、そうだクロっち――仲を深めるためにも、一緒にご飯を食べよう!」
クロっちはちょうどビーフジャーキーを食べまくって満足したらしい。
それからミングルの提案で、俺達は昼ご飯を食べることになった。……あのう、俺さっき食べたばっかなんだが。




