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勇者、裸の出会い(前編)

 村の外れにある、山の中で素振りをしていた。

 何故そんなことをしているかと言うと、少し前の戦闘にあった。勇者としての素質の無さを、行きなりさらけ出してしまった。

 セシリアは変わらず優しく接してくれるが、一緒にいるミリヤは露骨に態度を変えやがった。

「ふう。これで素振り百回もやった。今日は終わりだな」

「まだ百回『しか』してないじゃん。あと、百回はしないと駄目だな」

 剣の修行を見てくれると言ってくれたセシリアは、先に行ってしまった仲間と連絡を取る為に、どっかに行ってしまっていた。その代わりにミリヤが、雅夜のことを見張っているのだ。

 人が真剣に素振りをしているところを、ミリヤはずっと嫌味を言い続けてくる。

 なんて言うか、見た目は癒し系の顔をしているくせに、凄く腹黒な奴だった。

「セシリアさんは、とりあえず最初は素振り百回してと、言ってましたよ」

「貴方は言われた通りにしか、やらないの? 勇者なら少しは根性見せなさいよ」

 手に持っていた木の枝で、ミリヤは、雅夜の頭を殴ってくる。しなって意外と痛かった。

 言われている事も一理あるので、渋々と雅夜は素振りを始める。

 剣はスライムの戦いでも使った鉄の剣。ただ持つだけでも思いのに、素振りを百回もした後では腕の疲れも重なって、さらに重量を増したように感じる。

 すでに全身は汗でビショビショになっていた。

「ねえ、貴方のその服って、どこかの学校の制服なの?」

 暇なのか、ミリヤは話しかけてきた。完全にため口になっている。

「そうだけど、この世界にも学校とかあるんですか?」

 たしかに雅夜の着ている服は学ランだった。濃い青を基調にした落ち着いた感じの制服。たしか、家に帰ったときに寝間着に着替えたと思ったけど、セシリア曰く、これを着て川に倒れていたと。余談だが、うちの学校の女子の制服は可愛い感じのセーラー服だ。

「貴方、馬鹿にしてるでしょ? こっちにだって学校はあるよ。魔法学校だけどね」

「魔法学校……やっぱ、魔法とか教えたりするところなんですか?」

 雅夜の言葉にニヤリとするミリヤ。急に立ち上がって、胸を張る。意外に巨乳だ。

「そうよ。世界中から優秀な者を集めて、魔法や剣術、色んな知識を教えてくれる場所。そこで私たちはトップクラスの成績を誇っていたの」

「私たちって言うと、ミリヤさんや、セシリアさんも生徒なんですか?」

「そうよ。魔法学校のトップクラスが世界を救うために、魔王征伐の命を授かったの」

 豊満なバストを揺らしながら、ミリヤは満面の笑みを浮かべていた。

 いつもなら目の保養にもなる光景だが、なんせ素振りで疲れきっていた。

「なら、魔法学校の生徒や教師全員で、魔王を倒しに行けば良いんじゃないの?」

「あのね、前にも言ったけど今は戦争中なの。生徒や教師たちも、自分の国に戻って魔王軍と戦っているのよ。それに私たち四人がいれば十分なの」

(やっぱ、ミリヤの話はどっかで聞いた事があるな。ここまで出てるのに、思い出せない)


 追加の素振りも五十回を過ぎようとしたとき、ミリヤは急に宿屋に帰ると言って雅夜の前から立ち去ってしまった。なので、残り五十回は一人寂しくこなしていた。

 すでに日は傾き、辺りは赤く染まり始めていた。そこで重要なことに気づいた。

「宿屋の場所ってどこだ?」

 セシリアやミリヤに適当に連れてこられたので、道なんか覚えていなかった。

 周りは森になっていて、薄暗いし人の気配も無いように感じる。

 完全に迷子になってしまっていた。どうしようかと、雅夜は途方にくれてしまっていた。

「どうするかな。ここで待っているのが、いいんだろうけど……なんか出そうだしな」

 生ぬるい風が通りすぎていく。汗で濡れた身体には、異様に気持ち悪く感じた。

 その時、雅夜の耳に水の音が聞こえてくる。側に川でもあるんだろうか。

「この音の感じだと、そんなに離れた場所じゃないな。待ってる間に、水浴びでもするか」

 川のせせらぎの音がするほうに、雅夜は歩いて行く。

 十数メートルほど歩くと、森が開けて、その先に大きな川が横たわっていた。

 川幅は結構あるが、意外と浅く、川の流れも緩やかだった。

「ちょっと冷たいけど、仕方ないかな。宿屋に帰ったときに、もう一度温かい風呂に入りなおせばいいしな。さっそく、服を脱ぐかな」

 誰もいないことを確認して、雅夜は身につけている服を全て脱ぐと、綺麗に畳んで濡れないように大きな石の上に置いた。こういう時に、自分の几帳面な性格が分かる。

 数回身体に川の水を掛けて、ゆっくりと足を浸けていく。

「おおぉ、冷たいぞ。でも、気持ちがいいぜぇ〜」

 真ん中のほうに行くと、深くなっていて、雅夜の腰辺りまである。

 そのまま頭まで、潜ってみる。水は凄く透き通っていて、魚が泳いでるのさえ見える。

 雅夜は濡れた黒髪をかき揚げる。ピッタリと頭に髪の毛が貼りついてくる。

「川で遊ぶのは初めてだけど、楽しいものだな。うちの側じゃ無理だしね」

 雅夜は独りごちりながら、上流に泳いでいく。運動音痴でも、なぜか泳ぎは上手かった。

 小学生の時に平泳ぎで、学級で一番になったことさえあるし。

 ほんの少し上流に行くと、大きな滝が見えてくる。凄い迫力だった。

「これは凄い! 滝なんて始めてみたよ。修学旅行に日光に行かなかったからな」

 結構の高さから落ちてくる水、それが滝壺に吸い込まれていく。その時に弾ける飛沫と、上から落ちてくる飛沫で、滝の周辺は霧が出ていた。

 その霧の中に、人影みたいのが動いているのを、雅夜は見逃さない。

「人でもいるのかな……ここじゃ見えないから、もう少し近づくかな」

 無防備にも雅夜は、そのまま泳いでいく。すぐに人影の正体が分かった。

 それは――女の子だった。結構、華奢な体躯をしている。

 滝の側に立っている女の子は、一糸纏わぬ姿で、水浴びをしていた。その光景は、どこかの有名な画家が描いたような、可憐の中に幻想的な雰囲気があった。

 長い黒髪を艶やかに濡らして、小さいながらも主張している乳房は可愛らしくもある。

 誰もいないと思っているので、全く隠さない少女の裸体を、雅夜は十分に堪能していた。

 端から見ると、単なる覗きだ。いや変態だ。というか犯罪だな。

 それでも男の本能で、見るのを止めることが出来なかった。それが敗因だった。

 雅夜の足に、何かが触れる。そのせいで、思わず声を上げてしまったのだ。

「誰だ? 誰がいるんだろ! ……そこか!」

 少女はずかずかと、こっちにやって来る。それも裸で。

 それより、今の状況は最悪だった。覗きの上、こっちも全裸なのだ。アレも膨張してる。

 言い訳不能。絶体絶命。今度こそ、セシリアに嫌われる。

 お互いの顔が分かる距離まで、少女は近づいていた。遠くからは分からなかったが、可愛い。目が大きくてパッチリとしていて、セシリアと違った美しさがあった。

「……男? 何でここにいる!」

「い、いや、汗を流してて、何となく泳いでたら、ここに来てしまって……」

 少女に返答しようと、雅夜は立ち上がる。深さ的には、脚が全て浸かるぐらい。なので――。

 膨張したものが、少女には丸見えになってしまった。

 少女の反応は早く、一瞬に顔は真っ赤になって、頭から蒸気が出るほどになってる。その目には汚いものを見せたたと言う、怒りの色で塗りたくられていた。

「ほう。貴様は痴漢だったのか。なら、この場で斬られても、文句は言えないぞ!」

「ですから、これは……たまたまで、なんて言うか……」

「うるさいわ! 汚いものを起たせおって、それ事切り落としてやる!」

 聞く耳も持たず、いつの間にか手には短刀を握っていた。何処から出したかは置いといて、今は逃げないと命が危ないのだけは、確かだった。

 必死に走って逃げる雅夜。その後から、少女が短刀を振り回しながら追っかけてくる。コメディー映画みたいに滑稽な状況だが、逃げてる方からにしてみれば、ホラー映画な気分だった。

 なんとか、自分の服を脱いだ場所に辿り着くと、服と一緒に置いた剣を掴む。

 雅夜は一気に鞘を取ると、剥き出しになった刃を少女に向ける。

「俺は君を傷つけたくない。だから、退いてくれないか?」

「はん? 剣を向けて退けとは……笑止千万。そんな構えで私に勝てるとでも思ってるのか? 私も馬鹿にされたものだな」

 勝手に自分の世界に浸っている少女を、雅夜はどうしようかと考えていた。

 逃げるのが一番だけど、ここでセシリアと鉢合わせになるのは、さけたい。

 残るのは、説得と決闘。どっちも、望みは薄いが、決闘でなんとか浅い傷を負って、負ければいい。相手も気が治まるだろうし、傷はミリヤに直して貰えばいいわけだし。

 問題は痛いと言うことだ。と言っても、相手も本気で殺しに――。

「お前の罪は……万死に値する。死ね!」

(死ねですか……俺の人生は、ここで終わりなのか……)

 少女は凄い形相で飛び掛かってくる。が、その時、森から何かが現れる。


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