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勇者、初めての戦闘

 見渡す限りの大自然。草原を吹き抜ける風が、気持ち良かった。

 今まで雅夜が住んでいた場所とは、全くと言って違っていた。田舎に行けば、こんな風景を見ることが出来るだろう。でも、雅夜には見るもの全てが、新鮮に映っていた。

 もしかすると、自分はこの世界に来ることが運命とか?と、思ったりする。

 その気持ちを何倍にも膨らませてくれるのは、目の前に歩いている女性――セシリアのお陰だった。朝起きてからずっと、一緒について親切にしてくれた。

「勇者も良いもんだなぁ〜。美女と知り合えるんだもんな」

「なに言ってるのよ。雅夜様。勇者は大変なのよ」

 背後から声を掛けられる。雅夜は振り向くと、黒い髪を後ろで結わいてる女性が歩いてた。

 この女性はセシリアの仲間の一人で、ミリヤと言う。なんか神官見習いとか言ってた。

 ゲームで言うところの僧侶や白魔道士――回復役といったところ。

「でも、セシリアさんや、ミリヤさんが一緒だし、なんか楽しいですよ」

「楽しいか……まだまだ、甘いわね。君は異世界から来たんでしょ? この世界の怖さが、まだ分かってないのよ。もし、分かったらそんなこと言えないからね」

 ミリヤは白を基調としたローブをたなびかせて、雅夜のほうを真っ直ぐに見る。

 柔和な感じの顔にしては、ミリヤの口調はきつい。雅夜を信用してない感じだ。

 ほんのちょっと一緒にいただけで、雅夜にも痛いほどそれは分かっていた。

「その魔王って、そんなに強いんですか? 強いなら、大勢で向かえばいいと思うけど」

「強いに決まってるでしょ! 弱かったら、一々退治に行かないわよ。それに大勢の軍隊を率いるわけには行かない理由があるのよ」

「理由?」

 ミリヤは足を少しだけ速めて、雅夜の隣に並ぶ。そして耳元で小さく言う。

「魔王の軍勢が、主要王国に攻め入っているのよ。そのせいで、本丸に攻め入るだけの軍隊を用意でかないってわけ。それで、少数精鋭で魔王を討ち取る作戦に出たのよ」

 身体に見合わない長剣を腰に携えているセシリア。ミリヤは優しげな目で見る。

「その精鋭部隊に選ばれたのが、あの子。セシリアよ。剣の腕だけなら、大陸で一、二を争うほどの猛者よ。あと私と、ほかに二人いるけど」

 なんとなく聞き覚えのある話に、雅夜は首を傾げていた。

(なんか、最近同じ話を聞いた気がするけど、どこで聞いたんだろう)

 思わず考え込んでしまうと、雅夜は何かにぶつかってしまった。なんだろうと、見ると――。

 セシリアだった。道の真ん中で足を止めて、どうしたんだろう。雅夜はそんなことを思って、セシリアの顔を見る。

 その顔には、先ほどまであった優しい笑みは無くなっていた。

「どうしたんですか? 急に止まったりして」

「あ、勇者さま。その、この辺りに魔物の気配が致しまして」

(魔物だって! ちょっと、聞いてないよ!)

 少し慌てた様子で、雅夜は周りを見るが何も無いし感じない。

 自分はセシリアみたいな剣の達人ではないから、仕方ないと言えば仕方ないけど。

 その時、道の外れの草むらから、何かが飛び出してきた。

 セシリアは腰の剣を抜くと、すぐに構える。それが凄く様になっている。

 雅夜も、宿屋を出るときに貰った鉄の剣を鞘から抜く。ずっしりとした重さが腕を襲う。

 なんとか両手で構えると、セシリアの隣に並ぶように前に出る。

「気をつけてください。あれはスライムです」

「スライム……あれが、スライムか」

 目の前には、青いゼリー状の物体が、気持ち悪く蠢いている。雅夜はそれを見て、ニヤッとする。

 スライム――言わずと知れた冒険物のゲームに良く出るゼリー状の魔物だ。大抵は弱くて、物語の序盤にするレベル上げで、よく踏み台にされている。

「セシリアさん、あれは俺に任せてください! 勇者の力を見せますよ」

 雅夜は勇者だ。勇者なら、幾ら初心者でもスライムには負けないだろう。それに軽く勝って、二人にいい所を見せたい。そんな邪な気持ちが動力になり、雅夜はスライムの前に出る。

「駄目です! まだ、貴方は戦いに慣れてない――」

 セシリアが前に出るのを、ミリヤが制する。

「いいんじゃないの。私も、雅夜様が本当の勇者が知りたいですしね」

 これで邪魔する者はいない。雅夜とスライムの一対一の戦いが始まる。

 と言ったものの、運動音痴の雅夜はどうすればいいか、分からなかった。とりあえず、適当に剣をスライムに振り下ろしてみた。

 見事に命中! スライムは真っ二つに――なってなかった。それどころか、剣がスライムの弾力で弾かれてしまった。

 思わず、体勢を崩す雅夜。そこにスライムが、追い討ちに何かを飛ばしてくる。

 咄嗟によける。雅夜は、自分が今まで居た場所を見て、驚いてしまう。

「じ、地面が、こ、焦げてるよ!」

「気をつけて、スライムは溶解液を吐きかけてくるの。それに触れたら、火傷します」

 そう言うことは最初に言って欲しいと、雅夜は思いなから、もう一度剣を構える。

 剣道とかやったこと無いので、型はメチャメチャだ。テレビで見たことあるままに、剣を正眼に構えてみた。剣の重さで二の腕がプルプルと震えだした。

「ぎゅるるるる〜」

 気持ち悪い声を上げながら、スライムは飛び掛かってくる。

 そのまま雅夜の顔に当たる。スライムはゴムボールみたいで、あまり痛くなかった。

「なんだ、溶解液以外は大したこと無い。これなら、やれる」

 スライムは再度、雅夜に向かって飛び掛かっていく。雅夜は待ってましたと、剣をスライムに突き出す。これで、スライムは剣に串刺しになるはず。

「勇者さま、あぶない!」

 雅夜は目を疑った。スライムは空中に止まって、そのままの体勢で溶解液を吐き出してきた。

 行き成りすぎて、雅夜は身体を動かせなかった。溶解液が掛かると思ったとき――。

 目の前に美しい女性が、突然現れた。それはセシリアだ。

「だ、大丈夫ですか? 魔物は弱く見えても、奥の手を持ってます」

 セシリアは弱々しく、言う。その顔には、大粒の汗が噴き出していた。

 布や肉の焼けたような臭いが、雅夜の鼻腔を刺激する。

「だ、大丈夫? せ、背中が、ひ、酷い事になって――」

「雅夜様! 危ない、早くよけて!」

 ミリヤの声。その声にハッとして、前を見ると、スライムが溶解液を吐き出そうとしていた。

 完全に腰が抜けてしまって、動かない。雅夜は、その場にへったと座り込んでしまう。

「くそ、あの勇者、なにしてんだよ!」

 ミリヤの口調が一変する。

「主を、我に力を貸したまえ。セシリアの傷を癒したまえ!」

 呪文みたいなのを、ミリヤは詠唱する。それと同時に、セシリアの周りが白く輝く。

(これが回復魔法……本当にゲームみたいだ)

「ミリヤ、ありがとう」

 それだけ言うと、セシリアは手に持っていた剣を投げる。スライムに向かって。

 溶解液を吐く前に、剣がスライムを貫く。気持ち悪い断末魔を上げながら、地面に落ちた。

「やったのか?」

「はい。スライムは魔物の中で一番弱いですけど、村人や力の無い者には驚異なんです」

 雅夜に向かって、背中を向けるセシリア。幻滅されてしまったか。

 魔法で傷が治ったのか、セシリアの背中は綺麗だった。服は完全に溶けてしまったのか、上半身は裸になってしまっていた。下着すら、溶かされたみたいだ。

 そんなことを気にしないのか、セシリアは剣を拾おうと、スライムが落ちた場所に向かう。

「勇者さまは、まだ弱いんですから、前に出ないで下さい」

(やっぱり、幻滅されてしまったようだ。勇者がスライム一匹に負けたから、仕方ないよな)

「だから、次の町に行ったら、私が剣の修行を見ます。だから、落ち込まないで」

 と、言いながら、セシリアは剣を拾う。なんか、セシリアの耳が赤いような。

 そして、雅夜のほうに振り向くと、神々しいほどの笑顔を見せてくれた。

 笑顔以上に、雅夜は形の良いバストに目が釘付けだった。

「雅夜のスケベが!」

 その声と共に、目の前が暗くなる。全くと言って、前が見えない。

「勇者未満な奴が、セシリアの胸を見るなんて、百年早い。当分はそのままでいろ」

 ミリヤが魔法で何かしたのか、前が見えない。てか、いつの間に呼び捨てにされてるし。

 そんなことで、勇者(未満)雅夜の初めての戦闘は幕を閉じた。


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