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寛容な國  作者: SBT-moya
9/11

突入。


すっかり雨の上がった夜である。

 池田ヶ丘も三ノ宮は夜も賑やかだが、

住宅街は静かなものである。


 特に、『吉住会』の本拠地周辺は誰も寄り付かない。

この街で唯一の豪邸が静かにそこに建っていた。


 豪邸は中も外も「しん」としている。


 ……がそこに、装甲車両のPV-2型が正門に突っ込んできた。


 「ゴン!!」 という音がして、誰も突破を試みようとしなかった反社会性力の城門が破られたのだった。

まさかカチコミにくる人間がいるなんて思ってなかったのだろう。


 しかしこれで、あたりは蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。

豪邸の外に集結したアジア系の組員達が、装甲車を止めようと発砲する。


 それでも装甲車は止まらず、庭の砂利を撒き散らしながら豪邸に突っ込んだ。

一発。豪邸の壁面に車がめり込む。バックしてもう一発。


 組員達は発砲しながら装甲車の運転席に接近しようとするが、

運転手も一歩怯まず相手が人間だろうが容赦無く衝突した。


 あたりは銃声と、アジア人の叫び声が響いている。

そして、装甲車が豪邸の壁面に食い込んでようやく動きを止めた。

その時には、足を潰されたアジア人の山が築かれていた。


 比較的軽傷のアジア人組員の一人が、運転席のドアに恐る恐る近づくと、突然ドアが開き、

車内からショットガンを発砲されて吹き飛んだ。


 ……中から出てきたのは、平成初期に暴力団撲滅運動時に配備された装備に身を包んだ田沢だった。

手には、池田ヶ丘署の押収品倉庫から無断で持ち出したRPG(対戦車ロケット)を持っており、

なんの躊躇もなく玄関をめがけてぶっ放した。


 静かだったこの土地に、爆発音が響き。

豪邸に炎が上がった。


「……これが池田ヶ丘署の本気だバカヤロウ……」


 ただでさえ、ナメられ続けて鬱憤が溜まってたところに愛犬まで殺された田沢はすでにキレていた。

今まで銃を見せつけて怯ませるやり方しか、日本でしてこなかったこの暴力団はキレた人間を前にして恐怖し、

本丸が焼け落ちるのを見て逃げるものまで現れた。

 


「マリア!! マリア!!!」


 火の手が上がり始めている豪邸の中を田沢は土足で上がっていった。



 豪邸の玄関は火を吹いていた。 田沢はショットガンを構え、屋敷の中へと踏み込む。 照明はまだついている。しかし、廊下には誰もいなかった。逃げたのか? それとも、待ち伏せか?

「……マリア!」

 田沢は怒鳴ったが、返事はない。

 畳敷きの廊下を歩くたびに、足元の木材がきしむ。次の角を曲がる。

逃げるような足音が聞こえた。田沢はすぐに察した。まだ生きている組員がいる。


 声のする部屋に近づくと、襖の奥で何かが倒れる音がした。田沢は躊躇なくショットガンのストックで襖を叩き割った。

「……ッ!!」

 部屋の中には、ヤクザの男が一人、畳の上で転がっていた。顔面が腫れ上がり、鼻血で汚れている。


「Mr Eか……」


「マリアはどこだ」


 田沢は問答無用でショットガンの銃口を顔面に突きつけた。


「言え」


「ふ、ふざけんな、撃てるもんなら撃ってみろよ!! 腰抜けポリスが!!」


 田沢は即座に、足元の畳に向けて発砲した。銃口から放たれた散弾が、畳を吹き飛ばし、床下の板まで砕け散る。土埃が舞い上がり、ヤクザが思わずのけぞる。


「――ッ!!  ま、待て!!  こ、殺す気かよ!!!」


「僕はMr Emergencyだぞ」


 田沢は男の額に銃口を当て、じわりと押し込んだ。


「……どこにいる」


 男は唾を飲み込んだ。


「……に、二階の奥の間だ……鍵がかかってる……」


「合鍵は?」


「持ってる、持ってる!!」

 震える手でポケットから合鍵を取り出すと、田沢はそれを一瞬で奪い取った。そのまま男の顔面を蹴り飛ばし、もう一人の倒れている組員を踏み越えて部屋を出た。


 二階へと続く階段に向かう途中、田沢はすぐに異変を察した。急に、屋敷が静かになっている。たった今まで鳴っていた怒鳴り声も、銃声も止まった。

(待ち伏せか……)

 田沢は一度立ち止まり、ショットガンを構え直す。

 その瞬間――

 バン!!

 階段の踊り場に隠れていた男が、田沢めがけて発砲してきた。拳銃の弾が肩をかすめる。田沢は即座に身をかがめ、柱の陰に隠れた。

「………ッ!!」

 階段の上には、武装したヤクザが三人。 それぞれ拳銃を構え、田沢を撃ち下ろしてくる。階段の下にいる田沢は、明らかに不利な位置だ。

 田沢は咄嗟にショットガンを逆の肩に持ち替え、傾けたままトリガーを引いた。

 ドン!!

 一発の散弾が階段の壁を砕き、木屑が飛び散る。

 ヤクザたちは一瞬ひるんだ。田沢はその一瞬を見逃さなかった。

 田沢は防弾ベストのポケットから、ガス手榴弾を取り出した。

「これはお前らの落とし物だ!」

 ジャラッ

 手榴弾のピンを歯で抜き、すぐさま階段の上へ放り投げる。

「――ッ!? やべえ!!」

 ゴォン!!

 次の瞬間、白煙が爆発的に広がり、視界を奪った。ヤクザたちは咳き込みながら姿勢を崩し、田沢はその隙に駆け上がった。

 至近距離での戦闘だった。 一人が銃を撃とうとした瞬間、田沢はショットガンのストックで顔面を殴りつけた。

「ぐはッ!!」

 男の鼻がへし折れ、血飛沫が宙を舞う。

 もう一人が拳銃を向けたが、田沢はすでに動いていた。至近距離なら拳銃よりも速い。

 男の腕を掴み、壁に叩きつける。そのまま腕をへし折るようにねじ込み、銃を落とさせた。

 最後の一人は逃げようとした。

 田沢は即座に、拳銃を拾って引き金を引いた。

 バン!

 弾は男の膝に命中した。男は絶叫し、階段から転げ落ちる。

 田沢は煙の中を駆け抜け、ついにマリアが閉じ込められている部屋の前にたどり着いた。


 表情のない顔で、ただ、直立で立っていた。


「マリア! ここから出るぞ!!」


「だめなの?」


「?」


「『じっとしてろ』って言われたの」



 田沢はその言葉を無視してマリアの手を引っ張ろうとした。しかし、頑ななまでにマリアは抵抗する。


「もういいんだマリア。 君はこんなところに居なくていい!」


「ダメなの!」


 マリアと揉み合っているうちに、背後から気配を感じ、田沢は振り向いた。



 ガン!!



 銃弾は田沢の肩を貫通した。

田沢はうずくまる。


「汚い手でご婦人に触らないでもらおう」


 田沢はその声に覚えがあった。胡散臭い清廉潔白さ。

花井は火事が起きている建物の中でも一切動じず、悪役然とした表情を浮かべて田沢とマリアの前に現れた。



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