五個目 のりを巻くのは意外と難しい
プロローグ
「戻りました」
「ただいま戻りました〜」
外套を纏った女性二人が、高層のビルの中に入って行く。そして、中に入室すると、中にいた大勢に出迎えられる。
『おかえりなさいませ!』
「お帰りなさい。商品補充しておきましたので、いつでも大丈夫ですよ」
受付と思しき場所にいる女性が、二人にそう伝える。すると、二人の女性は僅かに笑みを浮かべて──、
「ありがとう。後で頂く。でもまずは報告をしなければ。組織長は、部屋にいる?」
「はい。お二人のご帰還をお待ちしております」
「そう。じゃあ行くわ」
「おにぎり……」
五本の刀を帯刀している女性が先を行くと、三本の刀を帯刀している女性が、若干残念そうな表情を浮かべ、後ろをついて行く。
エレベーターに乗り、最上階へと向かう。そして、大きな部屋【組織長室】の前に立ち、ノックをする。
「入ってくれ」
「失礼致します」
二人は中に入室する。
「【おむすび】たらこ、帰還しました」
「【おむすび】すじこ、帰還しました」
「無事に帰ってきてくれた事、感謝する」
中にいたのは、四十代〜五十代くらいの、白髪の男性が椅子に座っていた。
中は、豪華な内装で、執務室のような机と椅子が置いてあり、その最奥にあるもっとも豪華な椅子に男性は座っていた。
「組織長、ご報告したい事が」
「うん」
「奴らがついに、動き出しました」
「…………そうか。ついにか……。交戦したのかい?」
「いえ。戦いにはなっていません。主を狙っていて隙だらけだったので、右腕を肩から斬り落としただけです」
「相変わらず、凄いことをサラッと言うね君は……」
「そこがお姉様のいいところです」
「それもそうだね。敵に深手を負わせたとなると、しばらくの猶予はありそうかな?」
「それは、分かりかねます。深手を負わせたのは四天王の一人のみ。その後ろに控えていた者は無傷。さらに、他の四天王が出てくる可能性もあります」
「なるほど……あまり油断はできないか……」
男性は、あごに手を当て深く考え込む。
「ですが、他の四天王が出てくる可能性は極めて低いと思います。なので、そこまで危惧する必要もないかと」
と、五本の刀を帯刀している女性──たらこが付け加えた。
「そうだね。君が言うと説得力があるから、安心できるね。それと、戻ってきたばっかりで申し訳ないんだけど……」
「捜索の手伝い、ですね」
「あぁ。たらこ君にはこれまで通り調査を進めてもらって、すじこ君に昆布君の捜索に加わってもらいたいんだ。たらこ君とは別行動になってしまうんだけど……」
申し訳なさそうに言う男性に、三本の刀を帯刀している女性──すじこがゆっくりと口を開く。
「大丈夫です。もう、あの頃の弱い私ではないので」
「貴女なら大丈夫。貴女は強い。私が保証する」
「お姉様……! ありがとうございます!」
たらこがすじこの肩に手を置き、そう述べると、すじこはとても嬉しそうにはにかんだ。
「二人共、ありがとう。それじゃあ、よろしく頼む」
「「了解」」
二人は部屋を出て【休憩室】と書かれた場所でくつろいでいた。
「たらこ、補充されてる……やた♪」
「お姉様が喜んでる……! 普段クールなお姉様とのギャップで、最高過ぎる♪」
二人はおにぎりを食べていた。様々なおにぎりがラインナップされている自動販売機の前で、たらこは、嬉しそうに購入している。
表情は大して変わらないが、声音が若干、テンションが上がっている。
「それじゃあ、私、行ってきますね」
「うん。気を付けて」
「はい! お姉様もお気をつけて!」
二人は別行動となった。
すじこは行方不明となった昆布の捜索を。たらこはこれまで通り【ライザー】の調査と ″鍵″ についての調査を行う事になった。
「はぁはぁ……」
オーリは、横たわりながら巨大な聴儡器を睨みつけていた。
全身ボロボロの傷だらけで、すでに満身創痍だった。
「いくらさんも、ツナマヨももう戦えない……」
そう。ツナマヨこと煎歌と、いくらこと繚の二人は、オーリから少し離れた場所で気を失ってた倒れてしまっている。
二人共、全身から血を流し、傷だらけだった。使用していた翼や拳は消失している。
繚が考えた作戦はこうだった。
まず、飛行能力がある繚が上空で聴儡器の注意を引き、聴儡器を引き付ける。
その隙に、オーリと煎歌が攻撃をして、倒す。そういう作戦だった。
だが、聴儡器はその作戦をまるで分かっているかのように、先回りした行動をして、三人をボロボロに打ちのめしてしまった。
そして、繚と煎歌は気を失ってしまった。残ったのはオーリだけ。しかしそのオーリもすでにボロボロで、もう立ち上がる気力すら残っていない。
織の元に向かったヒューリナを追わなければいけないのに。
「この、ままでは……主様の身が、危ない……」
オーリは立ち上がろうとする。だが、全身に激しい痛みが走り、立ち上がれない。もしかしたら、どこかの骨が折れているかもしれない。
しかし、オーリにはそんな事は関係ない。大好きで大切な主の元に行かなければならないから。
「私は、どうしてこんなに無力、なんだ……!」
オーリは一筋の涙を流す。その涙が地面に落下する。
すると──、
「グモォォォォォォォォォォォォォォォォォ!?」
聴儡器が絶叫した。
「え……?」
オーリが顔を上げると、そこにいたのは──、
「全く。情けない。貴女にNo.3をあげたのは時期尚早だった?」
「た、たらこ、さん!?」
【おむすび】のNo.1である、たらこが立っていた。
「ど、どうして、ここに……!? そもそも、どうやって ”現実世界” に!?」
「まぁ、それは後で。それより、今はあいつをどうにかしないと」
「は、はい……で、でも、その……体が動かなくて……」
「いい。私が一人でやる。あんたはそこで休んでな」
「は、はい……」
そう言ってたらこは、目にも見えないスピードで移動した。
「は、速い……」
たらこと聴儡器との戦いが始まった。
☆ ☆ ☆
「*******************!!!」
全身から無数のミサイルのような物を発射する聴儡器。その攻撃は全てたらこに向かって行き──、
「遅い」
迫ってくるミサイルのような物を、左に帯刀している刀の一つを抜刀し、目にも留まらぬ速度で斬り捨てる。
「見た目は ”聴殲器” と同じだけど、力は違うな。本物はもっと、速く、重く、鋭い。お前ごとき、私の敵ではない」
たらこは左手で右側に帯刀している刀を抜刀して、二刀流で飛び上がる。
そして、そのまま──、
「【和式、二刀。旋回刀!】」
猛スピードで回転しながら、二本の刀で聴儡器を切り裂く。
「グモォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
断末魔を上げ、聴儡器は消滅した。
「す、すごい……あの聴儡器を一瞬で……」
地面に着地したたらこは、二本の刀を納刀。そして、オーリの方を向く。
「あの程度の敵、強敵でもなんでもない。それに、そもそもがあれは聴儡器ではない。よく分からない混合種だった」
「混合種……なるほど……あ! それより、急がないと主様が!」
「それなら大丈夫。もうすでに救出した。幹部の一人に重傷を負わせてね」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます……!」
「うん。この後、救助班が来るから、安静にして。私は自分の仕事に戻る」
「あ、はい! ありがとうごいました」
「うん。じゃあ」
そう言ってたらこは、一瞬にして姿を消した。
「私は、結局また、何もできなかった……」
オーリは、救助班がくるまでの間、一人落ち込んでいた。
☆ ☆ ☆
どこかよく分からない場所にいるたらこ。
「………………ここら辺にある。そんな気配がする……」
目を瞑り、精神統一をしているたらこ。何かを探しているようだ。
「”のり” を準備するには、 ”水” を用意しないと」
たらこは、その場から姿を消した。
たらこは一体、何を探しているのだろうか。
エピローグ
『【おむずび】には人数が多すぎる気がするが?』
たらことすじこが立ち寄った部屋で、組織長が画面越しに男性達と話をしている。
「い、いや、それは、多ければ多いほど敵組織に対抗しやすくてですね……」
『多すぎるのはいかがなものかね』
『私達は具は少ない派なんだよね』
『ある程度減らしてもいいと思うよ』
映像は切れた。
ため息を一つつく組織長。
「全く、好き勝手言ってくれて……あの子達は頑張っていると言うのに……」
椅子に深く座り──、
「あの子達には、苦労をかけてしまう……」
悔しそうにそう呟いた。