そして俺は遭遇する
クリック?
クラック! と応えるかどうかは、読んでくれる方の判断にお任せします。
……別に童話でもなんでもないですがね。
それは桜の花が散った頃、忘れ物をとりに放課後の校舎に来ていた俺は、階段の踊り場で一人の女子を何人かで囲む女子たちの姿を見た。
彼女らは何かを言い争っているようで、ちょうど彼女らの死角にいるせいか俺のことに気づいていない。
イジメなのだろう。あの様子は間違いないと思う。
全く持って馬鹿なことをしている。そんなことをして何になるというのだ。せいぜい自己満足がいいところで、今例えテンションがハイになっていたとしても、後で一人罪悪感に苦しむのは自分なのに。
イジメられているのは、隣のクラスの野沢久美か。暗そうだが、目鼻立ちは整っており、肌は陶器のように滑らか。美人だが、どこか神秘的な雰囲気を持つせいか少々近寄りがたく、そのせいか見事にイジメの対象に選ばれたのだろう。
そういえば、イジメている側にも見覚えがある奴がいる。真ん中にいる背の高い女、高石良子だ。こちらも野沢と同じくらい美人なのだが、こちらは大人びた雰囲気を持つ、みんなを纏める姉御という感じの女子だ。
野沢については軽く友人に聞いたことがある程度だが、去年クラスが一緒だった高石についてはよく知っているつもりだった。だが、アイツがこんなことをしているとは知らなかった。少なくとも俺が知っている高石は、世話焼きな気の強い母親的なイメージだったのだが。まあこうやってみると、確かにその節はあったかもしれない。アイツは自分の意見に従わないものに手厳しかった。
俺は呆れたように溜め息をつくと、踵を返しその場を立ち去ろうとした。こちら気付いて、とやかく言われるのも鬱陶しい。
その時だった。高石が、野沢の胸を突き飛ばした。
突き飛ばされた野沢はそのままバランスを崩し、あろうことか階段の下に転げ落ちていった。
鈍器に布を巻いて硬いものを叩くような鈍い音、骨が階段にぶつかり、そんな音を立てた。
やがて音は止み、静寂が辺りに淀む。
俺の心臓が早鐘を打つ。あの転び方はやばい。後ろ向きで落ちていった。階段の角に後頭部をぶつけただろう。下手したら死んだんじゃないか。
読んでくださった方全てに感謝。