かいじゅうのスー
スーは小さなかいじゅうである。ギザギザとした歯、立派な尻尾、そして布と綿でできた身体。スーは今、部屋の隅に放り出されていた。
そばで女の子がテレビを見ている。テレビの中ではテレビを観る女の子より少しだけお姉さんの女の子たちが、かいじゅうと戦っている。
スーはいつもかいじゅうを応援するのだが、決まってかいじゅうはやっつけられてしまう。スーは少しだけ寂しくなる。
「ななみ、朝ごはんの時間よ」
女の子のお母さんが言った。
「はーい」
女の子は返事をすると歩いて行ってしまった。手にはお気に入りのウサギのぬいぐるみを握っている。ウサギの子はとても可愛く、そして強かった。
ウサギの子は可愛い服を着せられ、変身し、そしてかいじゅうのスーを倒しにくる。ウサギの子が勝つと女の子はとても喜ぶ。
だから、スーはいつも負けたふりをするのだった。しかし、もしかしたら女の子はスーのことを好きではないのかもしれないと思い、とても寂しくなる。
朝ご飯を食べ終わっても女の子は戻って来なかった。どうやら、外に遊びに行ってしまったらしい。多分、ウサギの子も一緒だろう。
その代わり、女の子のお母さんがやってきた。
「あの子ったら、またぬいぐるみを出しっぱなしにして。いらないのかしら」
お母さんはスーをむんずと掴むと箱の中に押し込んだ。
スーはお母さんの言葉にとてもとても寂しくなった。女の子はいつもスーのことを放り出してどこかに言ってしまう。
女の子は本当にスーのことをいらないと思っているのかもしれない。
スーは箱の中から飛び出した。スーはいらない子なんだ。そう思うといてもたってもいられなくなった。
「いらない子はこんな所にいちゃいけないよね」
スーは、窓の隙間から外に飛び出す。外はとてもいい天気だった。お日様の光がまぶしい。
スーは、家から離れてズンズンと歩いていく。スーの姿にみんなが驚き道をあける。
アリもスズメもそしてネコもかいじゅうのスーに驚いて、うやうやしく道をゆずった。
スーは少しだけ気分がよかった。えっへん、スーはかっこいい、かいじゅうなのだ。
しばらく行くと、カラスが現れた。
「おや、妙ちくりんなのがいるね」
「妙ちくりんじゃないよう。スーはかいじゅうだよ」
スーは答える。
「おや、それは、しっけい。それで君はどこに行こうとしているのだね」
スーはカラスの質問に困ってしまって答えられなかった。
「それじゃあ、私の家に来るかい?」
スーはうなずくと、カラスはスーを背中に乗せて飛び上がった。
空からながめると何もかもが小さく見えた。スーが住んでいる家も豆つぶみたいに小さく見えた。
スーは高い木のてっぺんに降ろされる。木の枝で作られたカラスの家はとてもここちがよくできていた。
「すごく立派な家!」
スーは言った。
「カーカーカー、そうだろう。あとは、お前から綿をほじくり出して子どものためにベッドをこしらえてやるのさ」
カラスは不気味な声で笑うと突然、スーにおそいかかってきた。
スーは自慢のギギギザの歯でカラスにかみつく。
「痛い、痛い、助けておくれ」
スーはかわいそうになってかみつくのをやめる。
「とんでもない子だね。元のところに返してくるとしよう」
カラスはスーを脚でつかむと空に舞い上がった。そして、スーとカラスが出会ったところまでくると、脚を離してしまう。
スーは空から落ちていく。その時、強い風がびゅーと吹いた。
スーは風に運ばれ、女の子の家まで戻ってきた。
「お母さん、スーは?」
「箱にしまいました」
「箱の中にいないの」
「そう、それならお母さん知らない。自分でしまわないからそうなるんでしょ」
女の子が泣き出した。
「泣かないの。お母さんも一緒に探すから」
スーは笑った。スーはいらない子じゃなかった。スーの家はここだ。
スーは窓から家に中に飛び込む。
「あら、こんな所に落ちてる。ななみ、見つけたよ」
女の子のお母さんは窓のそばに落ちていたスーを見つけると手に持つ。
「お母さん、ありがとう」
「ちゃんと、大事にしなさいよ」
「うん、分かった。ごめんね、スー大好きだよ」
女の子はスーを抱きしめた。それから、女の子はスーとウサギの子を並べて箱の中にしまった。
それからも変わらず、スーはウサギの子に負け続けた。でも、それを見てよろこんでいる女の子を見るとスーはとてもうれしく思う。
女の子はスーたちで遊んだあと、箱の中にじゅんばんに、しまっていく。そうするとスーはとても安心するのだ。女の子はスーのことも大事にしてくれているのだと。