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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約者の家が没落しそうなので見限りました。

作者: 冬蛍

「陛下。単刀直入に申し上げます。娘と殿下との婚約を解消していただきたい」


 公爵が緊急で求めた謁見で、唐突に出された要求に対し、無言のまま泰然自若とした王。

 そんな主君を前に、彼は更に言葉を重ねた。


「本日急遽謁見を願い出たのは、当家の娘の婚約の件です。我が領地への食料の安定供給の約定が守られない可能性が高い以上、婚約を解消するのが自然だと考えます」


 公爵家の当主は、内心の怒りを押し殺して、淡々と必要なことを述べた。


「早急に結論を出さずとも。今の段階では可能性の話でしかないのでは?」


 国王の脇に控えていた宰相が、公爵を宥めに掛かる。

 だが、彼は王家の財政状況と国内の食料自給率を熟知しているハズ。

 この国は豊かな国だった。

 状況が一変したのは、頭のイカレタ政策に転換したせいなのだ。


 7年前までのこの国は、食料自給率400%を誇っていた。

 その頃は民が飢える事態がこの国に訪れるなどとは、誰もが想像だにしなかった。

 それが、今はどうであろうか?

 国の安全保障の指標のひとつである食料自給率は、たったの15%にまで激減している。


 ◇



 公爵家の領地は、この国の地下資源のほとんどが集中している場所だ。

 近隣諸国にもそのような地域を擁している国はないため、この国が大きな顔をできる要因となる。


 公爵領は、いわゆる鉱山が主力産業で、農耕には向かない土地柄でもあり、地下資源を売って得たお金で領民に必要な食料を賄う。

 地下資源は、掘ればいつかは尽きる資源なのは事実だが、推定埋蔵量は現在の需要量に対して千年分を超える。

 公爵家は加工製品の製造を新たな産業として力を入れており、資源が尽きる時への備えも万全だ。

 そして、他所からの購入を余儀なくされる食料については、個々に調達するよりは領地として一括購入したほうがトータルのコストが低く抑えられる。

 そのため、公爵家は昔から複数の大店の商会を専属指定していた。


 公爵家と専属の商会は、そんな感じで共存共栄を維持していたのである。


 ところが、ここに王家からのメスが入る。


 通称王領と呼ばれる王家の直轄の領地は、主力産業が農業であった。

 そして、王領の近隣の領地の状況は何処も同じで、生産された食料は余り、買い手を探すのに苦労するありさまだった。

 片や食料を欲する公爵領は、残念ながら王領からは遠く離れた地にあるため、輸送コストを込みで考えると高くついて買い入れる方向の話にはならない。

 実際、公爵家の専属の商会が食料を調達する先は、公爵領に近い外国であった。


 そのはずだったのだが。


 画期的とされる植物油を燃料とする鉄道網が、この国の王の主導で国費によって整備された。

 それにより、輸送コストは激減する。

 低コストでの安定輸送。

 これを理由に、王領の食料を公爵領へ売り込もうとする動きが出る。

 しかしながら、公爵家としては、食料の安定供給は領地の命運に係わるレベルの問題となるため、長い付き合いの専属の商会を理由もなく切り捨てるわけにはいかない。

 そうした中で、王家は王都に在住の公爵の娘と、殿下がお互いに憎からずの仲で、好意を抱いている点に着目した。

 要は、両者が好き合っているのを理由に、婚約を持ち出して来たのだ。

 食料の取引をねじ込むのをついでにつけて。


 そんなこんなで、婚約という家同士の結びつきを切っ掛けに、王領の食料が公爵領に運ばれるようになった。

 もちろん、最初は少量からスタートした。が、王領産の食料価格はコソコソとダンピングされることで、徐々に取引枠が拡大して行く。

 公爵家が専属の商会に補助金を出して、取引を継続して持ち堪えていたのは数年のことでしかなかった。

 公爵の政策は、「補助金を出すのは、公正な競争ではない」と、宰相を筆頭に国内の有力貴族たちからも糾弾されたからだ。

 食料価格のダンピングが行われているのを証明することは、公爵家側には不可能だった。

 そうでなくとも、元々、価格競争には負けているのが現実であり、どのみち補助金は必要という事情でもある。

 馬車と鉄道では、輸送力に歴然たる差が発生する以上、やむを得ない話だけれども。


 また、「外国産の食料よりも、国産の食料を優先するのが国益に(かな)う」と言われると、それも間違いではないため反論しにくい。

 そうして、いつしか公爵領への食糧供給は、王領が独占することになったのである。


 それでも、それで安定していれば問題はなかったのだが。

 そうは問屋が卸してくれないのが、世の常であろうか。


 ◇



「これからは、エネルギーを制する国が強くなる。何、食料は買い求めれば良いのだ。王領では、植物油の生産と、植物油で動く紡績機を使って糸と布の増産に力を入れる」


「すごいですわね。でも王領で食料が生産されなくなると、わたくしの家が必要とする食料は大丈夫かしら?」


「大丈夫だ。王領の周辺領地では、食料が余っている。それらを買い付けてこれまで通り、必要量はちゃんと輸送する。何の問題もない」


 王位に就く前に、国政での実績が欲しい殿下とその側近たち。

 7年前の若き日の殿下は、(さか)しらに公爵の娘に語る。

 それが、この国の衰退、いや破滅への道だとは気づかずに。

 幼い彼は、側近たちの言葉を真に受け、受け売りの話を得意気に語っていたのだ。

 為政者の資質としては大問題で、この頃の彼は他者を疑うことを知らなかった。


 ◇



 この国が政策転換をしてから、5年の月日が流れた。

 その間は特に目立った問題もなく、上手く行っていた。

 綻びが見え始めたのは、政策転換した後の6年目に突入した時。綻びが決定的になったのはその翌年の7年目であった。


 原因は2年間続いた異常気象。

 大陸全土を襲った過去に例のない不作であった。

 不作により、植物油の生産量も、綿花の生産量も激減している。


 しかし、問題なのはそこではない。


 1回目の不作で国内に備蓄されていた食料の7割以上が消費され、残量の3割では全く足りない。

 しかも最悪なことに、買い求める先がほとんどないのだ。

 国内の領地持ち貴族は、自領への食料供給を優先する。

 王都に関しては言わずもがなであるし、王領でもそれは同じとなる。


 つまるところ、最も窮地に立たされているのは、公爵領だったのである。


 元来、公爵家が専属の商会を通じて食料を調達していた国々は、深刻な不作とはいえ、僅かながらに輸出に回す余力はあった。

 だが、買い手が殺到する状態で、長年の付き合いというアドバンテージを失っている公爵家は、買い付けを優先して貰うことなどできるはずもない。寧ろ、冷遇されている状態だ。


 そうした状況下で、元専属の商会から持ち込まれた話は、屈辱的な物であった。

 しかしながら、現実は厳しい。

 公爵家にそれを撥ね退ける余裕は、存在しなかった。


 公爵家に舞い込んだ話とは、「隣国の大商会の息子が公爵令嬢との婚姻を条件に、公爵領に必要な分量の食料の供給を請け負う」という、如何にも足元を見た物だったのである。


 ◇



「殿下! 殿下!」


「何事だ? 騒々しい」


 将来の王妃としての教育を城で受けていた公爵令嬢のところへ、彼女の父親の謁見のニュースが飛び込む。

 彼女は父から事前に内密な打診はされていたが、それでも婚約者の言葉を信じていた。

 古い話にはなるが、殿下は確かに「これまで通り、必要量はちゃんと輸送する。何の問題もない」と、明言したのだから、窮地の公爵家の事情を知れば、何とかしてくれるだろうと考えたのだ。


 何かを悟っているのか、王妃は気の毒なモノを見る表情へと変化し、教え子である公爵令嬢が婚約者として息子に会いに行く許可を出した。

 前述の言葉のやり取りは、その結果発生した物なのである。


「わたくし、殿下との婚約が取り消されそうですの」


「なんだと? 何故そのようなことが起きた?」


 面を食らっている殿下に対し、公爵令嬢は言葉を続けた。

 この時の彼女は、まだ婚約者を信じており、彼の対応に期待していたから。


「わたくしの家の領地の食料問題です。今後の継続取引を確約する証として、わたくしが商会の息子と結婚することを我が家は求められていますの」


「それは! だが、君は『もう婚約者が居る』と言って断れるだろう?」


「殿下。わたくしとの婚約は、我が家の領地に食料を供給するのがセットになった約定。元々あった取引枠に王領の食料が入り込めたのは、トータルで領地が必要とする量を安定供給することが、」


「ええい。黙れ! そんな話は聞きたくない!」


 次代の王になるはずの男は、正妃として迎え入れるはずの女性の言葉を遮った。

 彼は、自身の罪悪感を刺激される言葉など望んではいない。

 もっとも、彼が耳を塞いだところで、状況は何ひとつ好転などしないのだけれど。


「いいえ。黙りません。記録的な不作で、収穫量が豊作ではなく平年並みのレベルと比較しても、昨年実績は3割。今年は4割程度の収穫量の見込みだとか。それでも、わたくしの家が昔取引をしていた国のいくつかは、自国の民に必要な分を賄って、尚且つ輸出する余力があります。翻って、政策的な転作を奨励したこの国の惨状をご存知ですか? それと、その国から王都と、遠く離れた場所にある王領に食料が運び込まれていると聞きます」


「仕方がないだろう。何事にも優先順位という物があるんだ。それぐらいのことは、理解できるはずだ。王妃教育を受けている身なら、尚更だろう」


 公爵令嬢の気持ちは、この言葉で一気に冷めた。


 婚約者である殿下は、彼女のために、身を削って分け与える考えが皆無であることに気づかされたからだ。

 他国の商会が欲するほどの、彼女の実家の公爵家とその領地の存在価値。

 それは、彼にとって、あるいはこの国にとって、その程度の物でしかなかったことを思い知らされた瞬間である。


 公爵家が食料を購入できていないのは、王家が金に糸目を付けぬ勢いで買い漁っているから。

 そして、食料価格の高騰は留まることを知らず、この国が政策の転換で貯えていたはずの巨万の富が、急速に他国へと流出しているのは誰の目にも明らか。


 緊急政策で、利幅を乗せての国内販売を禁じていても、原価が高過ぎて食料の価格は異常なほどに高い。

 王都で暴騰した価格の食料を購入せざるを得ない貴族家は、増える一方だ。

 それでも、手持ち資金で購入できるのならばまだマシな方で、有力な商会に借金を申し込んでいる高位貴族家は、後を絶たない。


 そうした情報は、王都に居る公爵令嬢の耳にも届く。


 二度あることは三度あるという言葉もある。

 仮に何とか今年を乗り切ったとしても、来年状況が改善する保証など何処にもないのだ。


「公爵領に食料が足りていなくとも、全員が飢えて死ぬわけではなかろう。今年死者が出たとしても、そんなものはいずれ回復する。人が足りなければ、必要なだけ移住する民を集めるという手立てもあろう」


 殿下のこの言葉が、悪い意味で、公爵令嬢の決断への最後の一押しとなった。

 彼女は、“元”婚約者の前で無言のまま優雅に一礼し、その場を離れたのだった。


 ◇



「王妃様、わたくし、早急に父の領地の現状を視察しなくてはならなくなりました。教えを乞うている身で恐縮ですが、しばらくの間、お休みをいただけませんか?」


 殿下との不毛な、ある意味では有意義な会話を終えて、王妃の待つ部屋へと戻った公爵令嬢は、新たな要望を告げた。

 彼女は自身の発言とは裏腹に、「もう、ここへ戻ることはないだろう」と内心では思っている。

 王妃からの言葉を待つ間に、彼女は思考を進めていた。

 王都の公爵邸の荷物を全て運び出すことは不可能であるから、彼女は持ち出せる物の取捨選択をこの時点から脳内で開始していたのだ。


「お家の事情では、ここでの学びを強制はできません。わたくしは許可しますが、王都を離れるのならば、必要な手続きを怠ってはなりませんよ」


 王都に領地持ち貴族の家族が住んでいるのは、反乱への抑止力のひとつという側面もある。

 王妃が出せるのは王妃教育の中断を認める許可だけであり、息子の婚約者が王都を離れることの許可を出す権限はない。


「はい。もちろんです」


 言葉では肯定していても、実際にそうするのかは話が別だ。

 嘘も方便というやつである。

 正規の手続きを行えば、かなりの時間と手間が必要になる。

 そして、何より、そうした手順を踏んでも、許可が下りる保証はない。

 つまるところ、王都から非合法な手段で脱出する以外の選択肢などないのである。

 内心では殿下との婚約を切り捨て済みの令嬢は、そのことを十分に理解していた。


 公爵令嬢は、王都の公爵邸に戻った後、彼女自身の準備とは別で、使用人の解雇と解雇した使用人が公爵領へ戻ることを促すのを同時に進める気であった。

 足りなくなる邸内の人手は、貴族家で夜会などで手が足りない時によく使われる使用人派遣サービスを利用すれば良い。

 ほんの少し前まで、次代の王妃になる可能性が高かった女性は、王都の公爵邸の体裁という物を無視し、もう、完全に割り切っていた。


 ◇



「この国の国益の話に巻き込んでしまってすまないね。愛していた婚約者との仲をこちらの都合で引き裂いたこと。申し訳ないと思っている」


「いえ。此度の件が切っ掛けで、結婚が成立する前にアレの本性が知れました。これで良かったのだと考えています」


 公爵家に商談を持ち掛けた商会の息子とは、実は隣国の第四王子であった。

 ただし、母親が平民で、彼はいわゆる庶子なのだが。


「近隣にはない大鉱山の価値を理解できない国に、君の家が所属するメリットなんてないと思うよ。農業生産力だけにしか魅力のない国に、あのような無駄に巨大な王都や無能な王家、貴族家の連中は必要ない。この国の傘下に組み入れ、僕と君の共同統治下になるほうが、民にとってはきっと幸せさ」


 公爵令嬢は王都からの脱出を成功させ、王都の公爵邸は派遣された使用人のみで3か月ほど維持できる状況になっている。

 彼女は現在、国境も越え、隣国の商家に身を隠している状況だ。


 王家は公爵令嬢が王都から逃亡したことに、いずれは気づく。

 どの規模になるかは不明だが、公爵領に兵を向けられるのは確実だろう。

 食糧難のこのご時世に、王家がどれだけの兵力を動員できるのかはわからない。


 だが、しかし。

 公爵領には屈強な鉱夫という、即座に強力な兵と化す人材が豊富に居る。

 隣国であるこの国からの必要十分な食料供給があり、第四王子の私兵軍のレベルではあるものの援軍が出されれば、公爵領側の負けはあり得ないであろう。


 ただし、これは公爵家が明確に外患誘致の罪に問われる所業だ。

 まぁ、王都から自家の娘が違法に逃亡している時点で、罪状がいくら増えようとも公爵家は気にもしないであろうが。


 ◇



「何故だ! 君は私の婚約者なのに、何故この国を裏切った?」


 公爵領に征伐部隊として攻め込んできた兵の指揮官は、なんと殿下だった。

 ただし、彼は武力での解決ではなく、話し合いでの解決が可能な案件だと思い込んでいた。

 それ故に、率いて来た軍勢は、あくまで恫喝の目的でしかないようであった。

 もっとも、そうした先方の思惑に、公爵家の領地を守ることが使命の防衛軍が付き合う必要は全くない。

 先方の勝手な思惑で攻め込まれた以上は、問答無用で戦端が開かれる。

 そうして、殿下の率いた軍はあっさりと壊滅してしまった。

 ロクに食わせていない兵の集団など、数がいかに多かろうとも脆い。

 まして、兵の質も低いのだから何をか言わんやの話でもある。


 哀れ殿下は捕らわれの身となり、公爵令嬢らの前に縄で簀巻き状態のまま、引き出されたのである。


「その言葉。心外ですわね。わたくしの家を見捨てたのは、殿下が先ではありませんか」


「そんな事はない! 見捨てていないからこそ、婚約の解消はされていない。反逆が疑われて兵が出されても、婚約解消は保留とされているのだ!」


「まぁまぁ。彼が今更何を喚こうとも、この国はもう終わり。公爵家へ向けて交渉というカードを切らずに、いきなり武力を使ったんだ。反撃されても文句は言えない」


 公爵と公爵令嬢の脇に立っていた第四王子は、さらりと口を挿んだ。


「何だと? 貴様は一体何者だ?」


「おお、これは失礼。私は貴方の元婚約者の夫になる者です。この国は私たちがいただいて、運営して行きますので、貴方は心置きなくあの世へ旅立って下さいね」


「ま、待て! 私をここで殺すと言うのか? そんなことをすれば、全面戦争は免れんぞ」


「おやおや。もう全面戦争は始まっていますよ。貴方が見捨てた公爵家は、生存競争という戦争をするしか道はないのです。公爵家の領民の7割以上が死んでも構わないと、突き放したのは貴方たちなのでしょう?」


「貴方のその物言い。良いわね。わたくしが愛を育む相手として、合格だわ」

 

 公爵令嬢は、彼女の中では既に“元”婚約者の地位へと成り下がっている殿下へ視線を向けたまま、新たな婚約者に言葉を掛けた。


「お褒めに預かり、恐悦至極」


 隣国の第四王子はおどけた口調で短い返事をした後、「僭越ながら」と声を掛けた上で、簀巻き状態の男の首を刎ねた。


 この時、歴史は動いた。


 この国の終焉と、隣国の領土拡大政策の方向へと。


 ◇



「王妃様。いえ、元王妃様とお呼びするべきでしょうか。どうされますか? この国の王家の一員として潔く散るのもひとつの選択。ですが、わたくしは、貴女を実の母のように思っています。貴女の夫である王と、一人息子である殿下を殺したわたくしですが、それでもまだ実の娘のように思っていただけているのなら、助命もできるのですが」


 公爵令嬢は、母親を早くに亡くしているため、次代の王妃としての教育を施してくれていた女性を母のように慕っていた。

 それは、息子のみで娘を持たない王妃の側も同じ心情であったのだろうと思っている。

 ついでに言えば、彼女の父が妻を亡くした後に頑なに再婚を拒んだのは、実は若かりし頃から王妃に惚れていたからであるのも、なんとなくだが察していた。

 そのおかげで、過去の彼女は王家と公爵家存続のために、婚姻後、最低でも二人以上の子を産むことが義務付けられていたのだけれど。


 公爵である父と、王妃を再婚させることができるのかまでは不明だ。が、第四王子を含めたこちら側の陣営に害を与えることが不可能な待遇であれば、助命自体は可能となる。

 幸いと言って良いのかは微妙なところだが、王妃の実家は、公爵家が反旗を翻した際に王家側の敗北は必至と判断して、便乗して独立宣言をした末に内戦で消滅している。

 だからこそ、幽閉の憂き目に遭っていた王妃は、生きたまま公爵令嬢たちとの再会ができたのだが。


 結果的に、「いつの時代だ!」と言われかねないのだが、元王妃は戦利品代わりという名目で、公爵が引き取ることになる。

 ただし、公爵は娘の婚姻が成立した後、直ぐに娘婿(第四王子)に権限の全てを譲り渡した。

 何故なら、彼の望みはさっさと隠居してのイチャコラ生活への突入であったから。


 ◇



 当初は、娘を人身御供で差し出すも同然。

 屈辱的な婚姻を娘に強いる話だと思い込んでいた公爵家の当主。

 しかしそれは、蓋を開けてみれば間違いであったことに気づく。

 隣国の第四王子の個人的な野心に、公爵家が利用された面があるのは事実であろう。

 滅ぼされた国に元々は所属していたはずの公爵家。

 一国に相当する地域を任される大公家に成り上がり、当の娘は大公位の禅譲を受けた第四王子の正妃の座に納まって、幸せそうに笑っていた。


 おしまい。

 

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