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 永く続く千本鳥居の道を、音もなく走る。


 見咎められやしないかと度々鳥居の向こうに目を配ったが、一帯は穏やかな梅園が広がっているばかりで、感じるのは飛び遊ぶ小鳥の気配だけだ。

 おそらく梅園には、地上にある全ての品種が図録のように取り揃えられているのだろう。本来時期も違うだろうに、紅白の花が競うように咲き乱れ、青天を際立たせている。


 花ひとつ空ひとつ、なにをとっても盛りでなければふさわしくない。そんな考えが透けて見えるようで──さすがは高天原、神々のおわす国だなと、五郎八(いろは)は苦々しくも敬服せざるをえなかった。


 彼女がここ、高天原に足を踏み入れたのは初めてのことだった。

 永遠に訪れることはないだろう。そう思っていたのに、今、侵入者としてここにいる。

 いまだに現実味のない心地だというのに、鳥居ひとつ梅園ひとつ、高天原の規模の壮大さにはいちいち驚かされてばかりだ。


「見咎められたところで、今の私ごとき……かもな」


 思わず呟いた言葉に、前を走る須玉(すだま)が振り向いた。


「なにか申されましたか、ヒメさま」


 緊張で青ざめたその顔に、五郎八はいや、と微笑んでみせた。

 須玉自身はおのれの余裕のなさに気付いていないのか、けなげにも励ましの声をかけてきた。


「もう間もなくですよ。エビス神の言うことがまことなれば、この鳥居連も間もなく終わって──あ、ほら、社殿が!」


 最後の鳥居をくぐると、そこには真新しい平造りの社殿がどっしりと待ち構えていた。足を止めると、切り立ての木材の香りがまとわりついてくる。須玉が扉を薄く開き、中を改めた。


「見張りは、本当にいないみたいですね」


 用心は続けながら、するりとふたりして扉をくぐった。

 社殿内は静まり返っていて、中を照らす灯火も、揺らぐことなくまっすぐに立っている。後ろ手に扉を閉めると、やっと一息つけた心地だ。

 須玉の渡してくれた竹筒からがぶりと清水を飲むと、五郎八は改めて正面を見据えた。


「これが、入り口か」


「ええ、ヒメさま。奥の大鏡、床の術式、天井のお鈴……。エビス神の話通りです」


「わざわざ社殿まで建てて、このようなものを。まったく、暇を持て余した神々とは恐ろしい」


天津神あまつかみだかなんだか知りませんけどね。ヒメさまが常世を離れる羽目になるなど、須玉は悔しくて悔しくて」


 ぐっと懐剣の柄を強く握る従者に、五郎八はつとめて明るく言った。


「恨み言はよそうよ。私とて、現状に甘んじすぎていた。遅かれ早かれ、似たようなことが起きていただろうさ。遅過ぎないうちにここに立てて、エビスには感謝しているよ。もちろん、ついてきてくれたおまえには感謝してもしきれない」


「──ヒメさまはお優しすぎるのです。そのご気性がいつかヒメさまに災いをもたらしそうで、須玉はとても心配なのです」


「ふふ。おまえにまで心配をかけて、至らぬ神だな、私は」


「そのようなつもりでは」


「よいのだ。至らなさを払拭するために、私はここに来たのだから」


 そう言って五郎八はお鈴を見上げた。

 見た目には神社の拝殿によくある鈴そのままで、緒は五色の綱をこよって作られている。


「これが、その、なんと言ったか、」


福引き機械(ガチャマシーン)です、ヒメさま。これを引けば、ヒメさまの助けとなる勇者が術式を通ってやって来るのです」


「勇者、か……」


 五郎八は綱を引き寄せ、詫びるように額にあてた。


「きっと、苦労をかけるのであろうな。できることならば、引きたくはないが」


「しかたないのです。そういう仕様なのですから」


 さあお早く、と促され、五郎八はぐっと綱を持つ手に力をこめた。


「ここよりは、神さえ知らぬ世界だものな──いち冒険者として、なすべきことをなそう」


 そうして五郎八は、鈴の緒を引いた。


初投稿です。色々拙い点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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